第25話 回想・ミッション
文字数 2,003文字
僕、細石 巌央 は元の名前は朝倉 巌央 という。
父、細石 武之 は妻帯者であるにも関わらず、細石家でお手伝いをしていた朝倉 瑞穂 に手を出した。そうして母は僕を授かった。
妊娠を悟った細石夫人は父にバラさないようにと大金を積み、母を辞めさせた。
こうして母は独りで僕を生み育てた。
やがて僕が小学生のときに父は僕の存在を知り、中学へ上がるタイミングで僕は母と引き離され、細石家の養子となった。
中学時代の三年間は針のむしろ状態だった。
小学校時代の友達がいない中学では友達はできず、家に帰っても遊び相手もいない。
血の繋がらない母とは会話はなく、父が帰ってくるのは夜遅い。
家では静かに本を読んで兄が帰ってくるのを待つだけだった。
唯一血の繋がった武尊 兄さんだけが心を開ける相手だった。
武尊兄さんは僕だけでなく、父や母からも好かれていた。優秀な武尊兄さんは細石家の期待を一心に受けていたのだ。
それに比べて僕は、父の血を引いているという一点だけでしか取り柄がなく、それを除いたらその辺に転がっている石ころと同じような扱いでしかない。
年の離れた武尊兄さんは僕が中三のときに地元の企業に就職し、一年後に東京へ転勤することになった。
血の繋がらない母と二人で家にいるのも耐えられないため、高校進学のタイミングで一人暮らしを始めることになった。
高校では相変わらず友達はできず、男子校なので当然女友達もいない。
そんな僕が女子校生の後藤伊吹さんと魂を入れ替えられて、今たくさんの友達に囲まれている。
まったくもって別の世界だ。
寮のルームメイトの園原 芳愛 さんが、部屋に戻ってきた。
お父さんが面会に来ていたのだ。
「そういえば、ヨシアさんのお父さんって77歳だったっけ?」
ヨシアさんの顔が一瞬曇った。
しまった! つい、何か話をしなくちゃいけないと思って触れてはいけないことに触れてしまったようだ。
「私が生まれたときは60歳だったのよ。ふふ、もうおじいちゃんでしょ」
「えっと……」
話題を変えようにもどう変えればいいか分からず言葉が詰まってしまう。
「実は本当の父親じゃないの」
「えっ!?」
本当の身体の持ち主のイブキさんを差し置いて、そんな重大なことを僕に言われても。
「イブキさんにはいつか話そうと思っていたの。
私がヨハ姉……って佐藤夜羽 さんと従妹同士っていうのは覚えている?」
「あっ、ゴメン、覚えていない」
記憶喪失設定なので覚えていないと言ったけど実は初耳だ。
言われてみれば、初めて佐藤さんを見たときに、ヨシアさんを一回り大きくしたような印象を受けたっけ。
「従妹っていうのは嘘で実は腹違いの姉妹なの」
「ええっー!」
「お父様は、50歳のときに前の奥さんを亡くしているの。息子夫婦も居たんだけどお父様が55歳のときに交通事故でみんな亡くなっちゃったの。
で、独り身で跡継ぎも居ないお父様は園原家を残すために考えたの。再婚しようって。
相手に選ばれたのは私のお母様。
園原家のお手伝いさんをやっていたの」
僕の母もお手伝いさんだった……。
「お父様にしてみたら何でも言うことを聞く人だと思ってたんでしょうね。都合がいい。
再婚したのはいいけど、お父様にはもう子供を作る力はなかったの。
そこで、お母様の姉に相談して、お母様の姉の夫の力を借りることにしたの。
で、生まれたのが私」
「お母さんの姉っていうのが佐藤さんのお母さん?」
「だから形の上では従妹ということになるわ」
「でも、お父さんと血が繋がってないって知ったら、その……気まずくならなかったの?」
「初めて聞かされた時は驚いたけど、それでお父様を嫌いにはならなかったわ。
だってお父様から愛されていることが分かっていたから」
ヨシアさんの境遇は僕に似ていた。片親としか血が繋がっていない。
ヨシアさんの存在がグッと身近に感じられた。
違っていることと言えば、血が繋がっていない親とも関係が良好なことだ。
僕もそんな関係になれるのだろうか?
「お父様が血の繋がらない私を愛して下さったように、私も他の誰かを無償で愛したいと思ってるの。
困っている人がいたら助けたい。それが私の生まれた意味だと思うから」
ヨシアさんが僕の手を取った。
「だから、記憶を失くしたからって落ち込む必要はないのよ。
私を頼ってね。
これからもずっと、ずーっと私を頼ってね」
ヨシアさんの手をほどこうとしたけど、力強く握られてほどけない。
一心に僕を見つめるヨシアさんの瞳。
僕は思わず目を逸らしてしまうのだった。
父、
妊娠を悟った細石夫人は父にバラさないようにと大金を積み、母を辞めさせた。
こうして母は独りで僕を生み育てた。
やがて僕が小学生のときに父は僕の存在を知り、中学へ上がるタイミングで僕は母と引き離され、細石家の養子となった。
中学時代の三年間は針のむしろ状態だった。
小学校時代の友達がいない中学では友達はできず、家に帰っても遊び相手もいない。
血の繋がらない母とは会話はなく、父が帰ってくるのは夜遅い。
家では静かに本を読んで兄が帰ってくるのを待つだけだった。
唯一血の繋がった
武尊兄さんは僕だけでなく、父や母からも好かれていた。優秀な武尊兄さんは細石家の期待を一心に受けていたのだ。
それに比べて僕は、父の血を引いているという一点だけでしか取り柄がなく、それを除いたらその辺に転がっている石ころと同じような扱いでしかない。
年の離れた武尊兄さんは僕が中三のときに地元の企業に就職し、一年後に東京へ転勤することになった。
血の繋がらない母と二人で家にいるのも耐えられないため、高校進学のタイミングで一人暮らしを始めることになった。
高校では相変わらず友達はできず、男子校なので当然女友達もいない。
そんな僕が女子校生の後藤伊吹さんと魂を入れ替えられて、今たくさんの友達に囲まれている。
まったくもって別の世界だ。
寮のルームメイトの
お父さんが面会に来ていたのだ。
「そういえば、ヨシアさんのお父さんって77歳だったっけ?」
ヨシアさんの顔が一瞬曇った。
しまった! つい、何か話をしなくちゃいけないと思って触れてはいけないことに触れてしまったようだ。
「私が生まれたときは60歳だったのよ。ふふ、もうおじいちゃんでしょ」
「えっと……」
話題を変えようにもどう変えればいいか分からず言葉が詰まってしまう。
「実は本当の父親じゃないの」
「えっ!?」
本当の身体の持ち主のイブキさんを差し置いて、そんな重大なことを僕に言われても。
「イブキさんにはいつか話そうと思っていたの。
私がヨハ姉……って佐藤
「あっ、ゴメン、覚えていない」
記憶喪失設定なので覚えていないと言ったけど実は初耳だ。
言われてみれば、初めて佐藤さんを見たときに、ヨシアさんを一回り大きくしたような印象を受けたっけ。
「従妹っていうのは嘘で実は腹違いの姉妹なの」
「ええっー!」
「お父様は、50歳のときに前の奥さんを亡くしているの。息子夫婦も居たんだけどお父様が55歳のときに交通事故でみんな亡くなっちゃったの。
で、独り身で跡継ぎも居ないお父様は園原家を残すために考えたの。再婚しようって。
相手に選ばれたのは私のお母様。
園原家のお手伝いさんをやっていたの」
僕の母もお手伝いさんだった……。
「お父様にしてみたら何でも言うことを聞く人だと思ってたんでしょうね。都合がいい。
再婚したのはいいけど、お父様にはもう子供を作る力はなかったの。
そこで、お母様の姉に相談して、お母様の姉の夫の力を借りることにしたの。
で、生まれたのが私」
「お母さんの姉っていうのが佐藤さんのお母さん?」
「だから形の上では従妹ということになるわ」
「でも、お父さんと血が繋がってないって知ったら、その……気まずくならなかったの?」
「初めて聞かされた時は驚いたけど、それでお父様を嫌いにはならなかったわ。
だってお父様から愛されていることが分かっていたから」
ヨシアさんの境遇は僕に似ていた。片親としか血が繋がっていない。
ヨシアさんの存在がグッと身近に感じられた。
違っていることと言えば、血が繋がっていない親とも関係が良好なことだ。
僕もそんな関係になれるのだろうか?
「お父様が血の繋がらない私を愛して下さったように、私も他の誰かを無償で愛したいと思ってるの。
困っている人がいたら助けたい。それが私の生まれた意味だと思うから」
ヨシアさんが僕の手を取った。
「だから、記憶を失くしたからって落ち込む必要はないのよ。
私を頼ってね。
これからもずっと、ずーっと私を頼ってね」
ヨシアさんの手をほどこうとしたけど、力強く握られてほどけない。
一心に僕を見つめるヨシアさんの瞳。
僕は思わず目を逸らしてしまうのだった。