第17話 ミッション・コンプリート?
文字数 3,005文字
聖堂を出ると僕の身体の後藤伊吹さん(自分の身体 )に手を引かれ聖堂の脇へと連れて行かれた。
壁に追い込まれた僕。
ドンっ!自分の身体 に壁ドンされた。
「ちょっとどういうこと!? なんであなたがヨシアさんと仲良くしてるの?」
「今は僕がイブキさんだし、ヨシアさんはイブキさんのルームメイトだし……」
「ボクが男子しかいない学校で一人寂しく過ごしていたのに、あなただけ……」
「そ、そんなこと言われても」
聖堂から出てくる人がチラチラとこちらを見ている。
「ここじゃなんだから別の場所へ移動しようか」
「そうだね」
「お腹も空いたことだし、お昼でも食べつつ」
僕と自分の身体 、二人で駅前のファミレスへと行った。
「調子はどう?」
自分の身体 が聞いてきた。
「まあ、うまくやれているんじゃないかな?
階段から落ちて記憶喪失ということになっているけど。
ヨシアさんが色々と面倒見てくれて助かってるよ」
「ああ、ヨシアさんならそうするわね」
「そっちは?」
「基本的なところはサタンが教えてくれたわよ。
何でも神様との約束であなたに迷惑かけないようになってるんだって」
「入れ替わった時点で迷惑かかっているわけだけどね」
「学校では特に誰からも中身が違うって疑われなかったわ。
まぁ友達が一人もいないみたいだし」
「……うん。そうだね。ってほっといてよ」
話しているうちにウェイトレスさんが料理を持ってきた。
二人の前に料理が並べられた。
「じゃあ、頂きます」
ナイフとフォークを手に取り食べようとしたら、自分の身体 が手を合わせて目を瞑った。
小さな声で祈りの言葉をあげてから料理を食べ出した。
食事前のお祈りは外食するときでもやるんだ。
食事を食べ終え、これからどうするかということになった。
約束の日は今日だとしても、何時に戻してもらえるのかは分からない。
とりあえず、僕のアパートへと行くことになった。
電車を乗り継ぎ住み慣れた町へ。
約一週間ぶりの自分の部屋。
夢にまで見た、女の子と二人っきりの部屋。
でも、今は自分が女の子だけど。
「ねぇ、どうして一人暮らしなの?」
「中学の時に色々あってね。家にいるのが気まずくなったんだ。
高校に入る契機に一人暮らししたいと言ったら、その方がいいだろうって」
「ふーん。まあ細かいことはいいわ。どうせ元に戻るんだし」
あっ、せっかく話す心の準備をしたのに。
「そういえば、お金ちょっと拝借させてもらったわ」
自分の身体 が机の上の本を取り上げた。
「どうしても聖書が欲しかったの。
あとでお金は払うわ」
「お金はいいよ。聖書を置いていってもらえば。
僕も聖書に興味が出てきたからね。ヨシアさんに教えてもらっているんだ」
「へぇ、そうなんだ。いつもはボクの方が教えているのに」
「ああ、だから、僕に教えるときに嬉しそうだったんだ」
「ところで、ヨシアさんとはどこまでいったの?」
「どこまでって、学校と寮だけだよ。
寮では聖書のことを教えてもらってたんだ」
「……そう」
「それよりも、今まで一回も連絡を取ってこなかったけど何で?」
「そりゃ、寮に電話するわけにはいかないでしょ。
家族でもない男から電話なんて取り次いでもらえるわけがないわ。
それにケータイ・スマホは所持禁止だし。
それを言ったら、そっちから公衆電話でも使って電話してくればいいじゃない?」
「それが、自分のスマホの電話番号覚えていなくて……」
「馬鹿なの? それぐらい覚えなさいよ」
自分の身体 が軽蔑の眼差しを送る。
意外とイブキさんってキツいんだな。もうちょっと優しい人かと思ってたのに。
「ご歓談中のところ失礼するぜ」
黒いスーツを着た細身の男がいつの間にか部屋に現れた。
サタンだ。
「約束の七日目なので魂を戻しに来たぜ」
瞬間、景色がぐるりと変わった。
さっきまで自分の身体が見えていたのに、今はイブキさんの身体を見ている。
「「元に戻った!」」
イブキさんの顔は鏡で見るのと印象が違う。中身が違うのでやっぱりそうなるのか。
「これにて、ミッッション・コンプリート」
サタンはスッと姿を消した。
元の身体に戻った途端、急に尿意を感じてきた。
「イブキさん、トイレ我慢してた?」
イブキさんは顔を赤らめた。
「ちょっとトイレ」
トイレに駆け込み、便器の蓋を上げる。
ズボンとパンツを降ろして便座に座ろうとしたところ……。
もうパンツ脱がなくてもいいじゃん。
身体の向きを変え便座を上げる。
ズボンを穿き直してファスナーを降ろす。
立ったままでジョロジョロとオシッコをする。これぞ男の醍醐味!
ああ、元の身体に戻ったんだなと実感する。
トレイから出る。
夢にまで見た、女の子と二人っきりの部屋。
男と二人で狭い部屋の中にいることを認識したイブキさんが両腕を胸の前に組み、身体を引いた。
「いや、別に変なことはしないよ」
「……ホントに」
「ホント」
「そういえば、入れ替わっているあいだ、ボクの身体に変なことしてないでしょうね?」
「し、してないよ。神に誓って。
そういうイブキさんこそ、僕の身体に変なことしてないでしょうね!?」
視線をそらすイブキさん。
「えっ!? 変なことしたの?」
視線はベッドの下。
「ひょっとしてベッドの下のもの見た?」
「知らない!」
月曜日にゴミ出しして空っぽにしていたはずのゴミ箱の中が既にティッシュでいっぱいになっていた。
「そのティッシュってまさか……!?」
「知らない!!」
背中に人の気配がする。人じゃない。悪魔だ。
サタンが僕に囁く。
『旧約聖書のオナンが何をしたか聞いてみな』
オナンっていう人がどういう人かは知らないけど、サタンの言うとおりにしてみよう。
「旧約聖書のオナンって何をした人なの?」
イブキさんが顔を真っ赤にした。
「知らない!!!」
僕の後ろにいたサタンが前に出た。
「三度『知らない』って言ったな」
イブキさんがハッとした顔になった。
「正直に告白すればそのまま帰るつもりだったけど……やめた」
その瞬間、目の前の景色が変わった。
目の前には僕細石厳央の身体が……。
「「また入れ替わっている!!」」
「七日で元に戻す約束だったよね」
「契約を破るなんて悪魔らしくないわ」
「さっき一回戻したじゃないか。約束は守ったぞ」
「今度はいつまで?」
「また七日?」
「聖書には゛七たびを七十するまでにしない″って書いてあるぜ」
「七七、四十九ということは四百九十日!? 一年以上も!」
「卒業しちゃうわ……」
「後藤伊吹の信仰が本物であると確認できるか、信仰を捨て欲望に忠実になるかしたら、その時点で戻してやるよ」
「「そんなー……」」
自分の身体 を見つめる後藤伊吹の身体 。
交差する視線。
交錯する心と身体。
僕らに与えられた新しい使命 。
運命の歯車が異なる歯車へと組み替えられた。
これからいったいどうなるの?
僕らの結末は神のみぞ知る。
壁に追い込まれた僕。
ドンっ!
「ちょっとどういうこと!? なんであなたがヨシアさんと仲良くしてるの?」
「今は僕がイブキさんだし、ヨシアさんはイブキさんのルームメイトだし……」
「ボクが男子しかいない学校で一人寂しく過ごしていたのに、あなただけ……」
「そ、そんなこと言われても」
聖堂から出てくる人がチラチラとこちらを見ている。
「ここじゃなんだから別の場所へ移動しようか」
「そうだね」
「お腹も空いたことだし、お昼でも食べつつ」
僕と
「調子はどう?」
「まあ、うまくやれているんじゃないかな?
階段から落ちて記憶喪失ということになっているけど。
ヨシアさんが色々と面倒見てくれて助かってるよ」
「ああ、ヨシアさんならそうするわね」
「そっちは?」
「基本的なところはサタンが教えてくれたわよ。
何でも神様との約束であなたに迷惑かけないようになってるんだって」
「入れ替わった時点で迷惑かかっているわけだけどね」
「学校では特に誰からも中身が違うって疑われなかったわ。
まぁ友達が一人もいないみたいだし」
「……うん。そうだね。ってほっといてよ」
話しているうちにウェイトレスさんが料理を持ってきた。
二人の前に料理が並べられた。
「じゃあ、頂きます」
ナイフとフォークを手に取り食べようとしたら、
小さな声で祈りの言葉をあげてから料理を食べ出した。
食事前のお祈りは外食するときでもやるんだ。
食事を食べ終え、これからどうするかということになった。
約束の日は今日だとしても、何時に戻してもらえるのかは分からない。
とりあえず、僕のアパートへと行くことになった。
電車を乗り継ぎ住み慣れた町へ。
約一週間ぶりの自分の部屋。
夢にまで見た、女の子と二人っきりの部屋。
でも、今は自分が女の子だけど。
「ねぇ、どうして一人暮らしなの?」
「中学の時に色々あってね。家にいるのが気まずくなったんだ。
高校に入る契機に一人暮らししたいと言ったら、その方がいいだろうって」
「ふーん。まあ細かいことはいいわ。どうせ元に戻るんだし」
あっ、せっかく話す心の準備をしたのに。
「そういえば、お金ちょっと拝借させてもらったわ」
「どうしても聖書が欲しかったの。
あとでお金は払うわ」
「お金はいいよ。聖書を置いていってもらえば。
僕も聖書に興味が出てきたからね。ヨシアさんに教えてもらっているんだ」
「へぇ、そうなんだ。いつもはボクの方が教えているのに」
「ああ、だから、僕に教えるときに嬉しそうだったんだ」
「ところで、ヨシアさんとはどこまでいったの?」
「どこまでって、学校と寮だけだよ。
寮では聖書のことを教えてもらってたんだ」
「……そう」
「それよりも、今まで一回も連絡を取ってこなかったけど何で?」
「そりゃ、寮に電話するわけにはいかないでしょ。
家族でもない男から電話なんて取り次いでもらえるわけがないわ。
それにケータイ・スマホは所持禁止だし。
それを言ったら、そっちから公衆電話でも使って電話してくればいいじゃない?」
「それが、自分のスマホの電話番号覚えていなくて……」
「馬鹿なの? それぐらい覚えなさいよ」
意外とイブキさんってキツいんだな。もうちょっと優しい人かと思ってたのに。
「ご歓談中のところ失礼するぜ」
黒いスーツを着た細身の男がいつの間にか部屋に現れた。
サタンだ。
「約束の七日目なので魂を戻しに来たぜ」
瞬間、景色がぐるりと変わった。
さっきまで自分の身体が見えていたのに、今はイブキさんの身体を見ている。
「「元に戻った!」」
イブキさんの顔は鏡で見るのと印象が違う。中身が違うのでやっぱりそうなるのか。
「これにて、ミッッション・コンプリート」
サタンはスッと姿を消した。
元の身体に戻った途端、急に尿意を感じてきた。
「イブキさん、トイレ我慢してた?」
イブキさんは顔を赤らめた。
「ちょっとトイレ」
トイレに駆け込み、便器の蓋を上げる。
ズボンとパンツを降ろして便座に座ろうとしたところ……。
もうパンツ脱がなくてもいいじゃん。
身体の向きを変え便座を上げる。
ズボンを穿き直してファスナーを降ろす。
立ったままでジョロジョロとオシッコをする。これぞ男の醍醐味!
ああ、元の身体に戻ったんだなと実感する。
トレイから出る。
夢にまで見た、女の子と二人っきりの部屋。
男と二人で狭い部屋の中にいることを認識したイブキさんが両腕を胸の前に組み、身体を引いた。
「いや、別に変なことはしないよ」
「……ホントに」
「ホント」
「そういえば、入れ替わっているあいだ、ボクの身体に変なことしてないでしょうね?」
「し、してないよ。神に誓って。
そういうイブキさんこそ、僕の身体に変なことしてないでしょうね!?」
視線をそらすイブキさん。
「えっ!? 変なことしたの?」
視線はベッドの下。
「ひょっとしてベッドの下のもの見た?」
「知らない!」
月曜日にゴミ出しして空っぽにしていたはずのゴミ箱の中が既にティッシュでいっぱいになっていた。
「そのティッシュってまさか……!?」
「知らない!!」
背中に人の気配がする。人じゃない。悪魔だ。
サタンが僕に囁く。
『旧約聖書のオナンが何をしたか聞いてみな』
オナンっていう人がどういう人かは知らないけど、サタンの言うとおりにしてみよう。
「旧約聖書のオナンって何をした人なの?」
イブキさんが顔を真っ赤にした。
「知らない!!!」
僕の後ろにいたサタンが前に出た。
「三度『知らない』って言ったな」
イブキさんがハッとした顔になった。
「正直に告白すればそのまま帰るつもりだったけど……やめた」
その瞬間、目の前の景色が変わった。
目の前には僕細石厳央の身体が……。
「「また入れ替わっている!!」」
「七日で元に戻す約束だったよね」
「契約を破るなんて悪魔らしくないわ」
「さっき一回戻したじゃないか。約束は守ったぞ」
「今度はいつまで?」
「また七日?」
「聖書には゛七たびを七十するまでにしない″って書いてあるぜ」
「七七、四十九ということは四百九十日!? 一年以上も!」
「卒業しちゃうわ……」
「後藤伊吹の信仰が本物であると確認できるか、信仰を捨て欲望に忠実になるかしたら、その時点で戻してやるよ」
「「そんなー……」」
交差する視線。
交錯する心と身体。
僕らに与えられた新しい
運命の歯車が異なる歯車へと組み替えられた。
これからいったいどうなるの?
僕らの結末は神のみぞ知る。