第18話 生理用品・ミッション
文字数 2,623文字
「あなたのせいでまた魂を入れ替えられちゃったじゃない!」
ボク細石 巌央 の身体の後藤 伊吹 さんが叫ぶ。
「君が『知らない』って言うからじゃない。正直に話していればこんなことにはならなかったのに!」
「まったく何でこんな割礼も受けていないような身体になんか……」
「『割礼』って何?」
「知らない!」
「また『知らない』って言う。そんなんだからサタンに目を付けられるんだよ」
「……そうね。
持って生まれた身体のことを悪く言うのは人としてダメね。
コンプレックスを刺激するようなことを言ってごめんなさい」
「えっ、ちょっと待って。コンプレックスなの?」
「過去のことをとやかくいうのはもうやめましょう。建設的にならなきゃ」
「納得いかなかったけど、そだね」
男の身体に戻れたのはほんの少しの時間だけだった。っていうかオシッコしただけじゃない。
わざわざ電車に乗り継いでここまで来てオシッコしただけで帰るなんて。
オシッコのことばかり考えていたら尿意がしてきたぞ。
そういえば、さっきオシッコをしたのは元のボクの身体。イブキさんに会ってからイブキさんの身体ではまだ一度もトイレに行ってなかったはず。
一度、オシッコのことを考え出したら、無性にオシッコがしたくなってきたぞ。
モジモジしていたらイブキさんが「トイレ行きたいんでしょ。早くいって来たら」と促してくれた。
トイレに入り、座った瞬間――。
「ひゃっ!?」
フトモモに触れる冷たい感触。
便座かと思って腰かけたら、便座じゃなかった。
誰だよ、便座を上げたままにしておいた奴は!
あっ、ボクか……。
さっき、自分の身体でオシッコをした時に便座を上げたままだった。
便座を降ろして再度座る。
男とは異なるオシッコの仕方。ああ、またこの身体に戻ってきたんだな。
この一週間イブキさんの身体で過ごしたので、実を言うと割としっくりきている。慣れというのは恐ろしいな。
用を済ませてトイレから出る。
「とりあえず、これからのことを考えないと」
「そだね」
「少なくともまた一週間は元に戻れないとすると……」
イブキさんがカレンダーを見ながら何か考えている。
「来週来るじゃない!」
「えっ? 来るって何が?」
「…………」
イブキさんが何かを言い出したがっているけど言えないようだ。
「えっ、何?」
「あなた馬鹿なの? それくらい察しなさいよ」
「全然分からないよ。言ってくれないと」
「えーい、しょうがない。生理よ、生理」
「えっ? 生理? ボクが?」
「そりゃそうでしょ。女の子の身体なんだから毎月生理は来るでしょ。学校でなに習ってたの!」
「いや習ったとは思うけど、自分のことだと思っていないし」
「今は自分のことでしょ。ちゃんと覚えて。
生理用品の使い方は知ってる?」
「いや知らないし。男の子が知ってたらおかしくない?」
「使えないやつだなぁ。
いいわ、今から教えるから」
「えっ、今から?」
「この辺のドラッグストアってどこ?」
何の因果かドラッグストアの生理用品コーナーに立つ二人。
この棚のところには足を踏み入れたことなんてなかったよ。
イブキさんが棚の一角を呼び差す。
「じゃあコレ。ぼくが使っているやつだから買ってきて」
「ボ、ボクがぁ?」
「そう、君が」
「恥ずかしいよ」
「なに言ってるの。自分のでしょ。
それに男の身体のぼくが買う方が変な目で見られるよ」
「確かにそうだ……」
今の自分は女の子の身体だから、ナプキンを買ってもおかしくない。おかしくない。
呪文のように自分に言い聞かせてレジへと運ぶ。
レジの人がナプキンのバーコードにリーダーをピッとあて商品を確認し、顔を上げて自分の方を見た。
このナプキンを買う人間がどういう顔をしているのか見てやろうとでもいうのだろうか?
いやいや考え過ぎだ。
ナプキンは紙袋に入れられたあと、店名の入ったビニール袋に収められた。
部屋へ戻って保健の個人授業開始だ。
「パンツ脱いで」
「ちょ、ちょっといきなりナニ?」
「いいから脱いで。自分で脱がないなら脱がせるわよ」
「わ、分かったから。脱ぐから。自分で脱ぐから」
ボクはスカートから手を突っ込み、パンツを降ろした。
脱ぎたてほやほやのパンツを丸まったままイブキさんに渡そうとした。
「広げてみて」
言われるがままに広げた。
「ちょっとぉ、ちゃんとオシッコ拭いてるの」
「ゴメンナサイ」
イブキさんは買ってきたナプキンを一つ取り出し包装紙を剥き、シールを剥がした。
「これをここに貼り付ける」
パンツの内側にナプキンを貼り付けた。
「これで穿いてみて」
股間がゴワゴワする。
「位置は自分で微調整してね。
早ければ火曜日には始まるから、その日には付けておいてね」
「始まったのを確認してから付けちゃダメなの?」
「あなた馬鹿なの? 想像してご覧なさい。始まったらパンツに血が付いちゃうのよ」
「言われてみれば確かに」
「もう一回パンツを脱いで」
パンツを脱ぎ、イブキさんに渡した。
「血を吸わせたら交換して。トイレでやるのよ。
血と言っても、肉片みたいのも出てくるからね。
パンツから剥がしたあとは……」
イブキさんはナプキンを剥がしたあとクルクルと丸めてシールで留めた。
「こうやって畳んでトイレのゴミ箱に捨てる」
そういえば、トイレの個室にゴミ箱があったな。
そんなにゴミが出るとは思えなかったんで不思議だったけど、生理用品を捨てるためのものだったんだ。
「いい? 生理が始まったら絶対替えのナプキン忘れないこと。トイレに行くときにはちゃんと持って行って」
「はい」
「お腹とか頭が痛くなると思うから、我慢できそうにないと思ったら頭痛薬飲んで」
「えっ、痛くなるの?」
「本当に何も知らないのね。ちゃんと知っておいて。
まぁ始まれば否応なく体験することになると思うけど。
あと、たぶん大丈夫だと思うけど、あんまり酷くなったら無理せず保健室に行くこと」
「はい」
女の子は色々と大変だ。
また一週間、もしかすると一年、下手をすると一生、後藤伊吹さんとして生きていかないといけないのかもしれない。
そう考えるとキリキリとお腹が痛くなってきた。
ボク
「君が『知らない』って言うからじゃない。正直に話していればこんなことにはならなかったのに!」
「まったく何でこんな割礼も受けていないような身体になんか……」
「『割礼』って何?」
「知らない!」
「また『知らない』って言う。そんなんだからサタンに目を付けられるんだよ」
「……そうね。
持って生まれた身体のことを悪く言うのは人としてダメね。
コンプレックスを刺激するようなことを言ってごめんなさい」
「えっ、ちょっと待って。コンプレックスなの?」
「過去のことをとやかくいうのはもうやめましょう。建設的にならなきゃ」
「納得いかなかったけど、そだね」
男の身体に戻れたのはほんの少しの時間だけだった。っていうかオシッコしただけじゃない。
わざわざ電車に乗り継いでここまで来てオシッコしただけで帰るなんて。
オシッコのことばかり考えていたら尿意がしてきたぞ。
そういえば、さっきオシッコをしたのは元のボクの身体。イブキさんに会ってからイブキさんの身体ではまだ一度もトイレに行ってなかったはず。
一度、オシッコのことを考え出したら、無性にオシッコがしたくなってきたぞ。
モジモジしていたらイブキさんが「トイレ行きたいんでしょ。早くいって来たら」と促してくれた。
トイレに入り、座った瞬間――。
「ひゃっ!?」
フトモモに触れる冷たい感触。
便座かと思って腰かけたら、便座じゃなかった。
誰だよ、便座を上げたままにしておいた奴は!
あっ、ボクか……。
さっき、自分の身体でオシッコをした時に便座を上げたままだった。
便座を降ろして再度座る。
男とは異なるオシッコの仕方。ああ、またこの身体に戻ってきたんだな。
この一週間イブキさんの身体で過ごしたので、実を言うと割としっくりきている。慣れというのは恐ろしいな。
用を済ませてトイレから出る。
「とりあえず、これからのことを考えないと」
「そだね」
「少なくともまた一週間は元に戻れないとすると……」
イブキさんがカレンダーを見ながら何か考えている。
「来週来るじゃない!」
「えっ? 来るって何が?」
「…………」
イブキさんが何かを言い出したがっているけど言えないようだ。
「えっ、何?」
「あなた馬鹿なの? それくらい察しなさいよ」
「全然分からないよ。言ってくれないと」
「えーい、しょうがない。生理よ、生理」
「えっ? 生理? ボクが?」
「そりゃそうでしょ。女の子の身体なんだから毎月生理は来るでしょ。学校でなに習ってたの!」
「いや習ったとは思うけど、自分のことだと思っていないし」
「今は自分のことでしょ。ちゃんと覚えて。
生理用品の使い方は知ってる?」
「いや知らないし。男の子が知ってたらおかしくない?」
「使えないやつだなぁ。
いいわ、今から教えるから」
「えっ、今から?」
「この辺のドラッグストアってどこ?」
何の因果かドラッグストアの生理用品コーナーに立つ二人。
この棚のところには足を踏み入れたことなんてなかったよ。
イブキさんが棚の一角を呼び差す。
「じゃあコレ。ぼくが使っているやつだから買ってきて」
「ボ、ボクがぁ?」
「そう、君が」
「恥ずかしいよ」
「なに言ってるの。自分のでしょ。
それに男の身体のぼくが買う方が変な目で見られるよ」
「確かにそうだ……」
今の自分は女の子の身体だから、ナプキンを買ってもおかしくない。おかしくない。
呪文のように自分に言い聞かせてレジへと運ぶ。
レジの人がナプキンのバーコードにリーダーをピッとあて商品を確認し、顔を上げて自分の方を見た。
このナプキンを買う人間がどういう顔をしているのか見てやろうとでもいうのだろうか?
いやいや考え過ぎだ。
ナプキンは紙袋に入れられたあと、店名の入ったビニール袋に収められた。
部屋へ戻って保健の個人授業開始だ。
「パンツ脱いで」
「ちょ、ちょっといきなりナニ?」
「いいから脱いで。自分で脱がないなら脱がせるわよ」
「わ、分かったから。脱ぐから。自分で脱ぐから」
ボクはスカートから手を突っ込み、パンツを降ろした。
脱ぎたてほやほやのパンツを丸まったままイブキさんに渡そうとした。
「広げてみて」
言われるがままに広げた。
「ちょっとぉ、ちゃんとオシッコ拭いてるの」
「ゴメンナサイ」
イブキさんは買ってきたナプキンを一つ取り出し包装紙を剥き、シールを剥がした。
「これをここに貼り付ける」
パンツの内側にナプキンを貼り付けた。
「これで穿いてみて」
股間がゴワゴワする。
「位置は自分で微調整してね。
早ければ火曜日には始まるから、その日には付けておいてね」
「始まったのを確認してから付けちゃダメなの?」
「あなた馬鹿なの? 想像してご覧なさい。始まったらパンツに血が付いちゃうのよ」
「言われてみれば確かに」
「もう一回パンツを脱いで」
パンツを脱ぎ、イブキさんに渡した。
「血を吸わせたら交換して。トイレでやるのよ。
血と言っても、肉片みたいのも出てくるからね。
パンツから剥がしたあとは……」
イブキさんはナプキンを剥がしたあとクルクルと丸めてシールで留めた。
「こうやって畳んでトイレのゴミ箱に捨てる」
そういえば、トイレの個室にゴミ箱があったな。
そんなにゴミが出るとは思えなかったんで不思議だったけど、生理用品を捨てるためのものだったんだ。
「いい? 生理が始まったら絶対替えのナプキン忘れないこと。トイレに行くときにはちゃんと持って行って」
「はい」
「お腹とか頭が痛くなると思うから、我慢できそうにないと思ったら頭痛薬飲んで」
「えっ、痛くなるの?」
「本当に何も知らないのね。ちゃんと知っておいて。
まぁ始まれば否応なく体験することになると思うけど。
あと、たぶん大丈夫だと思うけど、あんまり酷くなったら無理せず保健室に行くこと」
「はい」
女の子は色々と大変だ。
また一週間、もしかすると一年、下手をすると一生、後藤伊吹さんとして生きていかないといけないのかもしれない。
そう考えるとキリキリとお腹が痛くなってきた。