第17話 電話越しに泣く西原に胸が痛む

文字数 798文字

 西原からのメッセージが途切れてしまったので、心配になって電話をかけた。
おい、大丈夫か?
生野……
 久しぶりに聞いた西原の声は、か細く震えている。そして、鼻をすするような音。
泣いてるのか?
ごめん……
いいけど、今一人?
うん
 西原の母親は、夜は仕事でいないのだ。こんな時間に一人ぼっちで泣いているのかと思うと、胸が痛くなる。
飯は食べたのか?
食べてない
ちゃんと食べないと駄目だろ
うん……
食べるものはあるのか?
うん
じゃあ、このまま待ってるから食べちゃえよ
生野はもう食べたの?
あぁ。さっき伯父さんと伯母さんと一緒に
そう
今日のメニューは?
ミートボール入りのグラタン
ずいぶん洒落た料理だな
そうかな。いつもママが作って……あっ
 俺は思わずにやける。
へえ。お前、お母さんのことママって呼んでるのか
別にいいだろ
いいよ。お前らしくてかわいい

 西原は黙ってしまった。機嫌をそこねてしまっただろうか。

 そう思っていると、電話の向こうで「チン」と音がした。レンジでグラタンを加熱していたのだろう。

 

 それから、ガタガタという音。食卓に着いたのだろうか。

お~い
うん?
食べてる?
うん
美味いか?
うん。いつも、その、母親がいろいろ作って冷凍しておいてくれるんだ
ママでいいよ
うるさい
 少しは元気が出て来たみたいだ。俺はごろりとベッドの上に寝転がると、そのまましばらく待った。
生野
うん?
食べ終わったよ
そうか、よかった
あのさ……
うん
ありがとう。生野が電話してくれなかったら、多分何も食べないまま、ずっと泣いてたと思う
このくらいなんでもないさ

 なんなら、今すぐ新幹線に乗って家まで行きたいくらいだ。そして、細い体を抱きしめて……。

 だが俺は、西原の言葉で現実に引き戻される。

門田くんとは、その後どう?

 そうなのだ。西原は、愛しい恋人を思って泣いていたのだった。

 そして彼は、俺の気持ちはとっくに門田に移っていると思っている。でも、実際は……。

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