第5話 かつて無理矢理唇を奪って泣かせたこと

文字数 561文字

 最初で最後のデートのとき、夜の川沿いのベンチで、俺は西原に恋人の話を聞かせてほしいと言った。二人の幸せな話を聞いて、それで彼のことを諦めるつもりだったのだ。

 だが、恋人の心が自分だけのものにならないことに悩み、涙をこぼす西原を見て、我慢出来なくなった俺は、彼の華奢な肩を掴んで無理矢理キスをした。舌を差し入れた俺を思い切り突き飛ばし、なおも泣き続ける彼を見て、ひどく後悔したのだった。

あのときはごめん
生野が彼のところに行ったこと?
そうじゃなくて
何?
川沿いのベンチでキスしたこと
何を急に。いきなり話が飛ぶね
あのことがあったから、彼氏のところに行ったんだ
そう

聞いてもいいか?


駄目
おい! 
駄目だって言っても聞くくせに
 正解。
あのとき、なんで泣いたんだ?
それは、急にされて驚いたから
 それはそうだが、ファーストキスでもあるまいし、その前から、彼氏とはもっとイヤラシイことを何度もしていたはずだ。彼の甘く柔らかい舌の感触を思い出しながら、俺は送信する。

でも、ずっと泣き止まないからすごく困った。あれはなんで?


秘密
おい!
 西原の返信に、夜更けの部屋で、俺は一人赤面した。
それは、無意識のうちに生野の舌に答えそうになった自分にショックを受けたからだよ。彼以外にそんなふうになることはないと思っていたのに、生野のキスで体の奥が疼いたから
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