第15話 うすらひ《薄氷》〈洋之〉

文字数 7,655文字

 あれから1週間——約束の木曜日が再び巡ってきた。先週、風邪をおして植物園へ行ったものの、体調不良に気づいたあの女性(ひと)に喫茶店で過ごす時間を早々に切り上げられてしまって、このままでは終われない…と洋之が仕切り直しを強く頼み込み、何とか首の皮一枚つながった状態で迎えた朝だった。妻の美和子は、昨日から出張に出かけており、浅い眠りで夜明け前に目が覚めてしまった洋之は、部屋の窓を開け放ち、珈琲を飲みながら、白々と明けてゆく東の空を眺めていた。空きっ腹に珈琲を流し込んだせいもあるが、この前の彼女の様子からして、もしかしたら彼女と逢うのは今日が最後になるかもしれないと思うと、洋之は胃がキリキリと痛むのを感じた。
 今日は彼女と落ち合う時間を決めてはいたが、前回のように彼女を先に待たせるわけにはいかない、と洋之は手際よく洗濯物を干し、朝食を済ませると、出掛ける支度を始めた。部屋の戸締りをしながら西の窓に向かうと、夕べから今朝がたにかけて降った雨が空気の汚れを洗い落としてくれたようで、初めて彼女と言葉を交わしたあの日の朝と同じように、富士の雄姿がくっきりと浮かび上がり、幸先の良さを感じながら、洋之は家をあとにした。

 植物園に着いて、念のため足早に一周して彼女の姿が無いことを確かめると、洋之は水辺近くのベンチに腰を下ろして、腕時計をちらりと覗いた。——約束の時間までは、まだ少しある。今日は一応、前回約束したのだから、彼女は必ず来てくれるはず……とは思っていても、何だかソワソワと落ち着かない気分の洋之だった。この前会ったときの彼女の様子からして、逢うのは今日が最後になるかもしれないと心づもりはしてきたが、それでも今日、彼女と話す中で何とか今後も逢えるような糸口を探りたい——と、洋之は何をどう話せばいいか、色々シチュエーションを思い浮かべながら、ああ言おうこう言おうと考えあぐねてきた。しかし結局、これといった決定打になりそうなものは何ひとつ見つからず、あとはもう出たとこ勝負でと、諦めと多少の開き直りが入り混じった心持ちで、ここまで来てしまい、彼女に再び逢える嬉しさはあるものの、同時に、今日が最後になるかもしれないという思いが鉛のように心に重くのしかかっていた。洋之は胸の内のそんな気重な空気を押し出すようにベンチに凭れかかりながら両腕を上に伸ばすと、大きな欠伸とともに溜め息をもらした。ふと腕時計に目をやるといつの間にか約束の時間が近づいていることに気づき、慌ててベンチから立ち上がると、入口に向かって通路を歩き出した。
 ——と、通路の反対側から彼女がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。洋之が軽く会釈するように頷くと、彼女も微かに笑って頷き返した。洋之はドキンとして身体が熱くなるのがわかった。しかし、近づいてくる彼女の顔に少し固い表情が浮かんでいるのを見てとると、身体の芯からスッと冷めていくのを感じた。
 通路の真ん中あたりで落ち合うと、洋之は緊張した面持ちで口を開いた。
「今日は、先に少し歩きませんか……?」
 考えてみたら、喫茶店で一緒に過ごすことはあっても、園内を彼女と歩いたことがないことに気づき、今日はまずは園内を彼女とゆっくり歩いてみたいと思っていた洋之だった。それに、もしかしたら、今日が彼女と会うのは最後になるかもしれないと思うと、いきなり喫茶店へ向かうよりも、少しでも時間稼ぎをしたいという気持ちもあった。思いがけない誘いに戸惑いの色がさっと彼女の顔をよぎったが、洋之はそれには気づかぬふりをして、さ、こちらへ……と手を差し向けながら、先に歩き出した。

「そうだ、先日は葛根湯、有難うございました。風邪の引きはじめに飲んだせいか、あの後、たいして悪化することなく、比較的早く治りました」
 そう言いながら軽く頭を下げると、彼女は小さく首を振りながら、うっすらと微笑んだ。
 まだ開園して間もないせいか、園内を歩いている人影はほとんどなく、水辺から聞こえる池に流れ落ちる滝の音と、時折聞こえる鳥たちの声の他は、二人の足音しか聞こえない、静かな中をゆっくりと歩いた。並んで歩くという、ただそれだけのことが、くすぐったくもあり、そして胸の内がぽっと温かくなるようにも感じられる。しかし、その一方で、彼女の周りに何か見えない壁が張り巡らされているように感じられ、この間まではなかったはずの見えない一線が、自分との間に引かれているように洋之には思われた。本当はそんな一線など早く取っ払ってしまいたかったけれど、今の自分はそんなことができる立場にないことはよくわかっており、洋之はそれをぐっと堪えた。焦ってはいけない……今はまず、こうして彼女に会える機会を続けられることの方が大事なのだから、と。
 しばらくお互い何も言わず黙り込んだまま歩いた後、やがて彼女が不意に口を開いた。
「佐山さん、今日、寝不足なのでは……?」
「えっ……?!」思わぬ問いに、洋之は驚いて彼女を見た。「どうして……?そんなに疲れているように見えますか……?」
「さっき、こうやって大きく伸びをして欠伸をしてたでしょ……」
 彼女はそう言いながら、両腕を上に伸ばした。
「えっ……!?そんな……」確かにしてたけど……でも、それは彼女が現れる前のはず……。
 すると、彼女は手を軽く丸めて双眼鏡のようにして両目に当てると、
「私、見えるんです……透視」
 大真面目な顔で彼女がそう言うので、一瞬信じてしまいそうになった洋之だったが、
「——というのは、もちろん嘘です。さっき、佐山さんが私に気づく前に、遠くから欠伸してるお姿が見えただけ」
 おどけたように笑いながら言う彼女に、洋之もつられて笑ってしまった。思いがけず彼女の茶目っ気ある一面を垣間見て意表を突かれながらも、二人の間を流れていた気重な空気が少し軽くなり、ホッと胸を撫でおろしていた洋之だった。
「見られてしまっていたのだから、白状しちゃいますけど……、今朝は随分早くに目が覚めてしまって、そのまま起きて朝焼けの空を見ながら珈琲を飲んでいたんです。だから、ちょっと寝不足で、つい欠伸が……」
「あら、奇遇ですね。私も今朝の朝焼け、見てましたよ」
そう言うと、彼女はふっと空を見上げるように顔を上げて、
「暗い藍色の空が赤く染まったと思ったら、オレンジ色に変わり、やがて黄色くなり、次第に青く変化してゆくときのグラデーションは、ホントに綺麗だった……」
 と思い出すようにして続けた。
「マジックアワーってやつですね」
 同じ時間に、同じ空を見ていたと思うと、何だか勝手に心が通じ合っていたような感じがして、込み上げてくる嬉しさを密かにひとり噛みしめていた洋之だった。
「いつも、そんな早起きしてるんですか……?」
「うぅん……」小さく首を振りながら彼女が言った。「たまに目が覚めてしまったときに起きるだけ。家族も誰も起きていない時間に忍び足で台所へ行って珈琲を淹れるんです」
「珈琲もお好きなんですね。いつもここでは紅茶だから、珈琲はあまり好きではないのかと思ってました……」
「珈琲も好きですよ、ただ、外ではあまり飲まないだけで」
「じゃ、今度、珈琲の美味しい店にお連れしますよ」
「…………」
 つい、話の勢いで言ってしまった洋之だったが、返答に困り、途端に曇ってしまった彼女の顔色を見て後悔するも、既に後の祭りだった。すっかり警戒するような表情に変わってしまった彼女の様子に慌てて、
「そろそろ、喫茶店に行きましょうか……」
 気まずい空気から逃れるように、洋之が少し先に立って歩き出すと、彼女は小さく頷いて後を追った。
 
 喫茶店に入り、前回と同じ窓際の席に案内され注文を済ませたものの、ぎこちない空気はまだテーブルの上に漂っていた。洋之が寝不足であることを気にしているせいか、彼女の視線がちらちらと自分に向けられているのを感じた洋之は、窓の外から視線を戻すと彼女に向かって思い切って言ってみた。
「また熱でも測ってくれますか?」
 少しおどけたようにそう言いながら、洋之はテーブルの上に少し身を乗り出して、前髪を手で押し上げて、おでこを彼女に差し出すように見せた。すると、彼女は一瞬、きょとんとした顔をしたものの、すぐにクスっと吹き出して笑い出した。
「そんな冗談が言えるうちは、熱なんか測らなくても、大丈夫だわ」
 口の形だけで「もうっ」と言いながら、小さな子供を叱るような目で洋之を見ると、
「こんな冗談が言える人だなんて、思わなかった……」
 と笑いながら付け加えた。すると、洋之はすかさず、
「それを言うなら、さっきの——」
 と言いながら、手を軽く丸めて双眼鏡のようにして両目に置くと、
「『私、見えるんです……透視』の方がビックリですよ……。まさか、そんなことを言う人だとは思わなかったなぁ……」
 と、先程の彼女の姿を思い浮かべて、洋之は再び小さく笑った。
 ひとしきり話が済んだのを見計らうように、店員がテーブル脇に立ったので、二人は再び少し改まった表情になって口を噤んだ。やがて、店員がテーブルにカップを二つ置いて立ち去ると、洋之は鞄からおもむろにある物を取り出した。
「この前、絵の話をしていたでしょう。そしたら、新聞で絵画展の広告を見かけて、『あ……、そういえば、あなたがこの画家の絵を好きだと話していたなぁ……』と思い出して」
 そう言いながら、ある絵画展のチケットをテーブルの上に差し出した。
「観ておいて損はないと思うんです。彼女の絵がこれだけの枚数一度に展示されることは、あまりないことのようだし……」
 すると彼女は、一瞬驚いたような、困ったような、何とも言えない表情を浮かべて、洋之が差し出したチケットに目を落とした。少し黙っていた後、彼女は顔を上げると、ぽつりと呟くように口を開いた。
「覚えて下さっていたのですね……」
 そう言いながら、曖昧な笑みを浮かべた。
「植物園もいいけど、たまには他の場所もどうかな……と思って」
 できるだけさりげない調子で、洋之は言ってみたものの、彼女は再びテーブルに目を落とすと、きゅっと下唇を噛んで黙り込んでしまった。その沈黙に、洋之は彼女が考えていることが手に取るようにわかるような気がして、目を伏せた。
「あの……」
彼女の躊躇いがちな声に、言葉を選んで話そうとするような微妙な慎重さが忍び込んだのに気づき、洋之は身体を固くして身構えつつ、顔を上げた。
「この前、佐山さん、『友達としてなら、いいでしょう?』って仰ったけど、ほら、あの……映画でもあったでしょう?えっと……、メグ・ライアンと……」
「——ビリー・クリスタル」
 すかさず即答で、洋之が答えると、彼女はびっくりしたように、ハッと目を見開いた。でも、洋之が、
「タイトルは……」
 と言いかけたものの、なかなか思い出せずにいると、二人ともしばし考え込む表情になり、あ……と思い出して口を開いたのは同時だった。
「恋人たちの予感!!」
 思わず目を合わせてクスクスと笑い合い、テーブルの上の空気が少し柔らかくなった。彼女は懐かしそうに思い出す表情を浮かべながら、
「最後に観たのはいつだったかしら~あの映画。メグ・ライアンが、ちょっと面倒だけどチャーミングな女性を演じていましたよね」
 すると、洋之は手振り身振りでメグ・ライアンの真似をしながら、
「『ドレッシングはかけずに横に添えて』ってやつですね」
 彼女は思わずクスッと吹き出して笑うと、
「そうそう、サラダの注文の仕方ね、よく覚えてますね~」
と目を丸くしながら、嬉しそうに笑った。
「私、あれを観てから、お店で実際に真似して注文してみたことがあるんですけど、そしたら、お店の人にものすごく怪訝そうな顔をされたわ~」
 洋之は、メグ・ライアンを真似てサラダの注文をする彼女を思い浮かべて、思わず笑ってしまった。
「あと、あの映画で外せない有名なシーンが——」
 と言いかけて、洋之は、あ、しまった……、というように口を噤み、決まり悪そうな表情を浮かべて、スッと彼女から目を逸らした。
 すると彼女は、洋之の言おうとしていたこと、そして口を噤んでしまった理由を察したように、うふふふ……と小さく笑って引き継いだ。
「あの二人の食事のシーンでしょう…?メグ・ライアンが演じて見せたあとで、思わず隣のテーブルのおばさんが『彼女と同じものを』って注文するっていう……」
「そうです……」ホッとした顔で洋之は彼女に目を戻すと続けた。「あれ、ロブ・ライナー監督が、脚本を書いたノーラ・エフロンから聞いた話に愕然として、映画のワンシーンに組み入れたんですよね。僕もあれを観たときは、え、そうなの……?!ってショックだったなぁ…」
 思わず顔を見合わせて、二人で笑い合った。
 本当は、今日話すべきことはもっと他にあることはわかっていたが、せっかくの彼女と過ごす時間をもう少し楽しみたくて、洋之は、映画の話が出たついでに、これまで観た映画の中で心に残っている作品のことや、音楽のことなどを話し、代わりに彼女は最近読んだ本のことや、庭で今、娘と一緒に育てている朝顔のことなどを話してくれた。
 彼女と話すのは楽しかったし、何を話してても面白かった。彼女の落ち着いた柔らかな声にじっと耳を傾けているだけで、洋之は日々の雑事に紛れ、いつのまにかどこか強張っていた心の硬さがゆったりと(ほど)け、胸の奥からじんわりと温かいものが込み上げてくるような安らぎを感じられたし、話しながら浮かんでは消え色を変えてゆく彼女の目の色や、豊かな表情を見ているだけでも飽きることはなかった。何でもないことを話しているのに、なぜだか気持ちが昂揚してくる——どちらかと言うと人付き合いが苦手な洋之からすれば、こんなにもリラックスした気持ちで誰かと話せることは、今までの記憶にないことだった。
 三十分ほど、あれこれとお互いが持ち出した話題で盛り上がったものの、やがて話が途切れ、再びテーブルの上に気重な沈黙が舞い降りてきてしまった。もうこれ以上引き延ばせないと観念すると、洋之は深く息を吸い込んで、避けては通れない関門をくぐるべく、重い口を開いた。
「やってみませんか……?」
 彼女は思わず怪訝そうな顔で洋之を見た。洋之の次の言葉を待つように、じっと見ている。洋之はそんな彼女の視線を受け止めつつ、ひとつひとつの言葉を確かめるように、ゆっくりと呟くように言った。
「映画では成立しなかったかもしれないけど、現実では成立することがあるかもしれない……というか、そういうの、あってもいいんじゃないかな……」
 洋之が言わんとしていることがわかって、彼女は一瞬目を見開くと、微かに唇を開いたまま洋之を見つめた。洋之はできるだけさりげない調子で言ったつもりだったが、実のところ、心臓に冷や汗をかいていた。これ以上、彼女の反応を見るのが少し怖くて、思わずカップの中に目を落とすと、冷めた珈琲をおもむろに飲み干した。が、やがて、洋之は肚を決めると再び顔を上げて、じっと彼女の目の奥を見つめながら、言葉を継いだ。
「お互い結婚していて、夫や妻のいる身であることはよくわかっています。でも、せっかくこうして縁あって出逢ったんです。僕は、あなたと話していると、とても楽しいし、今まで知らなかったことを知る楽しさもある。それに、これまで気づかなかった自分の内側が見えてくるようなこともあって、本当の自分がどんな人間なのか気づくことで、驚くこともある。……結婚しているっていうだけで、そうした時間を過ごすことって、そんなにいけないことなんでしょうか」
 そこまで言うと、不意に洋之は口を噤んだ。自分としては随分思い切ったことを口にしたつもりだったが、本当は、こうして逢っている時間だけでは物足りない……、できることなら彼女と過ごす時間をまるごと欲しい——。話しているうちに、それが心の底からの願いであることに気づいてしまうと、それ以上、言葉を重ねれば重ねるほど、自分の本心からどんどん遠ざかっていくように思えたからだった。できることなら、想いのすべてを打ち明けたい——。でも、今はダメだ。今はまだそんなことを言ってはならないと、洋之は必死に自分を抑え、本当の気持ちを口にすることの出来ないもどかしさに、彼女からも自分の心からも目を逸らした。平然としていようと努力をしていたものの、胸の中は嵐が吹き荒れているような感じだった。彼女がNOと言ったら、一体どうすればいいのだろう……。何か他に説得できる道はあるのだろうか……。それとも、もうこのまま引き下がるしか、なす術はないのだろうか……。彼女のひとことが、この恋の行く末を決めてしまうかと思うと、洋之は息をこらして彼女の答えをじっと待った。
 すると、しばらくして、肩で大きく息をつくと、彼女が静かに口を開いた。
「実は私も……」
 洋之は顔を上げると、緊張した面持ちで彼女を見つめた。
「——佐山さんと話していると楽しいし……、それに——」
彼女はカップに手をやり、少し躊躇ってから付け加えた。
「妻でもない、母親でもない、嫁でもない、ただの一人の女性として過ごせる時間は……これまでにないことで新鮮だったし、何て言うか……とても助かるわ……」
 洋之はそれを聞いて、安堵のあまり全身でふうっと息をついた。胸にのしかかっていたものがどけられたみたいに、ようやく少し楽に呼吸ができるようになった。と同時に、突き上げてくる喜びを密かに奥歯で噛み締める。緊張のあまり強張っていた肩の力が抜け、身体の芯が(ほぐ)されていくようだった。洋之は何と言ったらいいかわからず、とりあえずテーブルの上からチケットを取ると、彼女の前に差し出した。彼女は小さく頷くようにして礼を言って受け取ると、鞄にそっと仕舞い込んだ。そして、入れ替わりに今度はペンとメモ帳らしきものを取り出すと、テーブルの上で何やら書き付け、一枚ピリッと剥がして洋之の前に差し出した。洋之は、ハッとして彼女を見つめた。受け取った紙には、女性らしい柔らかな綺麗な文字で名前と電話番号が書かれている——。
「随分、申し遅れましたが……」
 少しおどけるような口調でそう言うと、彼女は背筋をすっと伸ばして改まった表情をして「森村と申します」と軽く頭を下げた。
 そうして、驚きのあまりポカンと小さく口を開けたままの洋之に向って、
「この前みたいに風邪を引いたら、無理して来ないで、そこへ電話してくださいね」
 と微笑んだ。
「あ、はい……」
 洋之は口ごもりつつ、再び目を落とし、彼女から受け取った紙を見つめた。突き上げてくる喜びをそっと奥歯で噛み締める。
——響子、さんか……。
 響、という字は、彼女にとても似合っていた。“あの女性(ひと)”にようやく名前が付いたのが嬉しくて、紙に目を落としたまま、洋之は何度もその名前を心の中で呟いた。
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