ルナの夜の作戦

文字数 2,419文字

 ルナは、今禁忌を犯そうとしている。この気持ちは抑えることは出来ない欲望の1つになるのだろうか……。恋をするとどうしても歯止めが効かない。カレンとアレンがそうだった通り、ルナもそうなのだ。フェリックスは、どうなのかは分からないが、多分皆同じ事を考えているに違いない。
フェリックス様……今、よろしいですか?
 フェリックスの部屋の扉越しに話しかける。すると、フェリックスの声が聞こえてくる。
どうぞ、入ってください
 フェリックスに扉を開けてもらい、ルナは部屋に案内される。何もない質素な部屋には、フェリックスの使っているホルンの入った楽器ケースとアレンが使っているトランペットの楽器ケースが丁寧に保管されていた。本当にフェリックスは、几帳面な人なんだと認識できる。
こっちのソファーに座って。今から、飲み物用意するからちょっとだけ待っててね、ルナさん
ありがとうございます、フェリックス様
 フェリックスは、冷蔵庫からミルクを出し、鍋にいれる。
ルナさんは、ミルク嫌いじゃないよね?
 フェリックスのありきたりな質問にも、ルナはドキドキしていた。こんなにもドキドキするのは、昨日以来だ。昨日の夜もこれぐらいドキドキしていたのかもしれない。フェリックスのありきたりな質問にルナは、
ミルクは、嫌いではありませんわ。むしろ、大好きですわ!!
じゃあ、すぐにホットミルク用意するね
ありがとうございます、フェリックス様
 風味豊かなミルクの香りが部屋に広がってくる。この部屋でフェリックスと2人きり……そう考えるとルナは恥ずかしくなり、顔が火照ってくる。フェリックスは、ミルクを温め、マグカップを持ち、ルナの隣に座った。
はい、ルナさん。ホットミルクだよ。熱いからゆっくり飲んでね
はい……
 ルナは、ホットミルクをちびちびと飲み始める。しかし、顔の火照りはなくならない。今の状況がとても恥ずかしい。

 何故なら、大好きな人が隣に座っているシチュエーションなんてこの世界では滅多にないことなのだから。

何か顔が赤いね、ルナさん
これは、ホットミルクを飲んだからであって……。特別な理由は何もありませんわ!!
どれどれ……ちょっとだけ確認させてね
 フェリックスの顔が近づいてくる。ルナは目を瞑った。キスされる……と思っていたが、額に何かがコツンと当たったのだ。目を開けるとフェリックスの顔が目の前に広がっている。近い!!、とルナは声が出そうになったが、何とか心の奥底で押さえつける。
熱は……ないみたいだね
フェ……フェリックス様!!近いです!!私、てっきりキスされると思ってしまいましたわ!!
あぁ、誤解させてごめんね
 フェリックスは、くつくつと笑いを堪えている。ルナは、自分がどれだけ初なのかを思い知らされる結果となったのであった。

 しかし、ルナは諦めなかった。大好きなフェリックスの事を考えていたかった。でも、ルナも我慢の限界まで我慢してきたのである。これぐらい言っても怒られない、と思っていたことを口にした。

フェリックス様は、誰か好きな人がいるのですか?
ルナさんからそういうこと言ってくるの珍しいね
私は、フェリックス様の好きな人を知りたいです。だから、正直に話してください
 フェリックスは、黙りこんでしまう。ルナは、ダメだと感じてしまう。フェリックスは、何かを考えているような素振りを見せていたが、遂に覚悟を決めたのか重たい口を開いたのだ。
俺も好きな人はいるよ?
 ルナは、この言葉を待っていたのだ。フェリックスの好きな人を聞き出す。これが今回の目的なのだ。これ以上の関係になれるのならもっと色々な事をしてみたい、と思っている。

 ルナは、重たい口でフェリックスの好きな人を聞き出そうと口を開く。

そ……そうなのですね。誰が好きなのですの?
ピンクが似合う女の子かなぁ?
その子って誰なのですの?!
ごめんね、ルナさん。名前までは言えないよ?恋って名前を言っちゃうと叶わなくなるから……
そ……そうですよね……。言っちゃうと叶わなくなりますよね……
 ダメだ、とルナは思ったと同時に視界が水のベールで覆われたかのように周囲が見える。驚き慌てるフェリックスの姿も写っている。自分の声もおかしい……。ルナは、下を向いてフェリックスから視線をそらした。
ごめん……ルナさん。俺は、そんなつもりは無かったんだよ。言えなくてごめんね……。俺とルナさんは、身分が違う。だから……
 このフェリックスの言葉に怒りを覚えたルナは、フェリックスに飛びかかったのだ。それもフェリックスの手首を押さえつけ、逃げられないように覆い被さる。

 ルナは、もう淑女の嗜みを捨てていた。この時ばかりは、怒りを抑えきれなかったのだった。

フェリックスのバカ!!
ちょっ……ルナさん?!
 フェリックスは、ルナの押さえつけている手から逃れようとするが、力一杯押さえつけられているので逃げ出すことが出来ない。ルナのルビー色の瞳からは、次々と涙が溢れ、フェリックスの頬の上に落ちていった。
私は、フェリックスがずっと好きだったの!!なのに、フェリックスは私から逃げてばかり……。私の気持ちに気づいているのならもっと早く返事をしてよ、バカフェリックス!!
ご……ごめんね、ルナさん。俺は……
フェリックスの好きな人を教えてよ!!
俺は、ルナさんが好きだよ。でも、ずっと諦めていた。だって、身分が……
身分なんて関係ない!!好きになったら誰だって止められないの!!フェリックスだって分かってるでしょ!!なのに……簡単に身分、って言葉を出して感情を圧し殺すな!!
 ルナは、そのままフェリックスの胸に顔を当てて泣いた。フェリックスは、優しく頭を撫でてくれる。ルナは、フェリックスの優しさに感謝したのであった。

 この日、ルナとフェリックスの思いは実り、恋人同士になる。

 しかし、この二人にはこれから先障害となるものがたくさん現れる事になるとはこの時誰一人思ってもいない。

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登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

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