大好きな人のぬくもり

文字数 2,009文字

 大好きな人のぬくもりは、本当に心地よい。穴の空いた隙間を埋めていってくれる……、そんな気がする。それがどれだけの時間がかかっても二人の思いは揺らぐことはないだろう。
えへへ……温かいです♪
僕は理性を抑えるのに必死なんですけどね……
お兄様と同じ香りがしますわ♪
お兄さんがいるのですか?
うん♪私のお兄様もトランペットをやっている凄腕のプレイヤーなんですわよ♪
お兄さんは元気に過ごしているのですか?
 カレンは黙ってしまう。アレンは、話を変えようと努力する。頭をフル回転させて、話題を変えようと……
私が好きなのは、アレンさんだけですわよ?お兄様も好きですが、一番はアレンさんですわ♪
そう言ってくれると僕も嬉しいです
私もアレンさんといれるのはとても嬉しいことなのですよ♪
じゃあ、僕たちは両思いなんですね
そういうことになりますわね♪一緒のベッドでお兄様以外の人と眠るのは初めてなのでドキドキしますわ……ちょっと恥ずかしいです
 暗闇に包まれた二人の部屋……。アレンの隣では頬を赤らめて照れているカレンの可愛らしい姿。見えていないが何となく分かる。じれったくアレンの隣で動くカレンにアレンも変な感情を抱いてしまう。

 この渦巻く感情をアレンは知らない。初めて覚える感情だ。アレンは寝返りをうち、カレンと背中合わせにある。

どうして違う方向を見るのですか?
だって恥ずかしいから……
じゃあ、私もアレンさんと同じですね♪ねぇ、アレンさん……抱き締めてもいいですか?
それ……本気で言ってます?良いに決まってますよ!!
わーい(^o^)アレンさん、大好きですよ!!
 カレンにいきなり抱きつかれたアレンの理性はどっかにおさらばしてしまったようだ。おさらばした理性を取り戻すためにアレンは目を瞑った。

 カレンは、アレンに抱きついたままアレンの表情を覗きこんでみる。

もう寝ていますのね……。アレンさん、早すぎますよ……。夜はまだこれからですわよ
 カレンは、眠っているアレンの頬にキスを落とすと再びアレンに抱きつき眠りについたのであった。
(ヤバい……今さっきキスされた。僕は幸せ者ですねぇ~)
えへへ~、アレンさん……
 カレンの可愛らしい寝言が口から漏れている。アレンの心を揺さぶるには、効果は抜群のようだ。決してアレンはロリコンではない……。そう思っておこう……。
 アレンもいつの間にか眠くなってき、寝てしまったのであった。
あれ……今何時?
 アレンが時計を見るとまだ朝の5時であった。カーテンの隙間から青白い光がさしているのが分かる。アレンの後ろには、温かな大好きな人の温もりがある。一晩中、この体制で寝ていたのだろう。今思い返すとアレンは恥ずかしくなった。後、ルナを追い出した罪悪感も込み上げてきた。ルナは今頃フェリックスと同じ部屋で寝ているのだろう……と思う。

 その時、アレンの背中に激しい痛みが走った。思わずアレンは声をあげてしまう。

い……痛いです……。どうしたんですか……
お……お兄様……。嫌……
カレン?
嫌……お兄様……行かないで!!
 いきなりアレンの耳元でカレンが叫んだ。アレンは驚き、カレンの方を見る。顔を真っ青にし、冷や汗を流して呻いているカレンの姿が目に入った。

 アレンは、カレンに抱き締められたまま動けない。こんな時に何も出来ないなんて……、とアレンの心に芽生える。

カレン……大丈夫だよ。僕がいるから安心して
 アレンが優しくカレンを抱き締め、頭を撫でる。すると、いつの間にかカレンは落ち着き、眠りについていた。

 アレンは良かったと思い、再びカレンの頬にキスを落とした。冷たい汗が流れた後があったが、アレンはそんなことは気にしていなかった。カレンが落ち着いてくれた事に安心したのである。

カレンのお兄さん……何かあったのかな?カレンがそんなに怯えているのだから……何かあったんだと思う……本人に聞くのは怖いなぁ……
 アレンは疑問に思った。カレンは、天才だと言われる前は、落ちこぼれだった。その言葉にアレンは引っ掛かりを覚えていた。カレンが落ちこぼれなのは信じたくない。彼女がどうやって落ちこぼれから脱出したのかも気になった。
カレンの事だから後で聞いてみよう……まだ早いし、少し寝るか……
 アレンが再び眠りについた頃、カレンは目を覚ました。アレンに抱き締められている事にカレンは安心感を覚えた。先程の悪夢もどこかに飛んでいってしまったようにカレンの心は落ち着いていた。
アレンさん……ごめんなさい……。後でお兄様の本当の事を話しますわ……。その時、私から逃げないでくださいね……お兄様は、私のせいで……
 カレンは、アレンの胸板に顔を押し当て、声をあげずに涙を流したのであった。やはり、アレンの近くは安心する。カレンにとっては、お兄様に似ていて大好きな人なのだから……。部屋の暖炉はいつの間にか薪が燃え尽き、部屋の温かさはどこかにいってしまっていた。
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登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

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