ルナの憂鬱

文字数 2,086文字

最悪ですわ
 ルナは、通りすがりのアレンにいきなり悪態をついた。それは、時を遡ること数時間前になる。

 アレンは、カレンと一緒に寝た。これが、ルナに大きな弊害を与えたようだ。ありもしない事をさっきから言ってくる。

 それを聞くアレンも疲れきっていた。

君もフェリックスと一緒に過ごしているじゃないですか
 アレンは呆れ返っていた。

 ルナは、更に悪態をついてくる。

カレンの処女を奪っておいて何を言っているのですの!!
誰がいつ、そんな事をしたと言うのですか!!
私は、カレンから聞きましたわ。昨夜は、とても良い思い出が出来たって……
それは良かったです。少しでもカレンを喜ばせてあげたかったからですかね
 また、ルナのルビー色の瞳がアレンを睨み付ける。アレンは、それに対して反論する事はなかった。
アレン……あなたが犯したことは、最悪の事ですわよ!!乙女のキスを奪っておいて今更何を晒すつもりなんですか!!私は、断じて許しませんから!!
あの……最初にキスしてきたのは……カレンから……
言い訳は厳禁ですから!!
本当にルナさんは、手厳しいレディーですね……。それだと、フェリックスに愛想をつかされますよ
?!
 ルナは、フェリックスの名前を聞いた途端に、大人しく黙りこんでしまった。

 アレンは、それが少し気になる。

ルナさん……昨夜、フェリックスと何かありましたか?
……何もありませんでしたわ
 降り続く雪は、辺りを真っ白に染め上げていた。そのせいかルナの声もいつもよりどんよりしたものに聞こえる。それもとても沈んでおり、浮上してこれないほどに……。
何もないって……それはないですね。だって、声を聞けば分かります。ルナさんは、僕に挑発したりフェリックスやカレンといる時の声と比べればすぐに分かります!!
だから、何でもありませんわ!!アレンに話す必要性なんてありませんわ!!
 ルナは踵を返し、アレンの視線から逃れようとした。ここから逃げてしまえば、ルナの思っていることも全て話さずに済むと……。
どうして視線をそらすのですか?
アレンに話す必要性なんてありませんわ!!これは、私の問題です!!あまり構わないで下さい!!
じゃあ、フェリックスにこの事言おうかな
本当にあなた……性格がどんどん悪くなっていきますわね……
誉め言葉として受け取っておきます
 ルナは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのであった。

 キラキラ輝く雪の輝きとは異なり、アレンとルナの間には、火花が散り合っているのを周囲は、ただ見守るだけであった。


 ルナは、再び1人になる。すると、予想もしていなかったことに大きなため息が出てきたのであった。

はぁ……本当にアレンのやつ、カレンに手を出したのかな?あんな弱気なやつが、カレンに手を出せるとは思わないし……
 いつも猫かぶりが解けて素のルナをさらけ出す。普段の1人の時のルナは、敬語や丁寧語を使わない。猫かぶりを続けるとさすがのルナでも疲れてしまう。

 それに今の独り言は、誰にも聞かれていない、とルナは思いこんでいた。

 しかし、ここは教会だ。誰がいるかなんて分かりっこない。

 ルナは、再び気を入れなおし、教会の礼拝堂に向かったのであった。

 お昼の時間、ルナはカレンと一緒に昼食をとっていた。目の前には、大好きなカレンがいるのにルナの心は複雑だった。

 思わずため息がもれてしまった。それをカレンが聞き逃す訳がない。

どうしたんですの?ルナちゃんがため息なんて珍しいですわね。フェリックス様とイチャイチャ出来なかったことに後悔しているのですか?
な……何を言ってますの?!そんな事はありませんわ!!
 ルナは、酔っぱらいがコップの酒を煽るようにグラスに入れられた水を煽った。

 完全に猫かぶりを捨ててしまっていた。カレンの前では、猫かぶりでいる必要性なんてないからだ。カレンは、どんなルナでも認めてくれるからだ。まさに、女神とでも言えよう。

ルナちゃん……酔っ払った町で見かける男の人みたいですわ
それだけは言わないで下さい!!でも、私はフェリックスと何も出来なくて辛いですわ……。この思いをまたとどめておくだなんて……そんな事は出来ませんわ!!
それぐらいは、私もよく気持ちが分かりますわ。好きな人を思うと胸が締め付けられるような感じ……とても苦しいですわ。だから、私はアレンさんに思いを伝えたのです。今は、とても幸せですわよ♪
私は、そんなカレンが羨ましい……。私もフェリックス様に思いを伝えて楽になりたい……
人の心は移り変わっていくけど……恋心だけは移り変わらないのは事実ですわね……。信じられるのは自分の思いだけですから
そうだよね……。じゃあ、私は恋を知らないまま政略結婚……。それだけは、勘弁して欲しいわ
 ルナは、物悲しそうにグラスに入った水を飲む。

 外の景色は、雪で白く覆われ、モノクロに染めていく。

 カレンは、あることを思いつき、ルナに提案した。

良い考えを思いつきました、ルナちゃん!!
どんな方法なの!?
 身を乗り出しているルナにカレンは悪戯っぽく笑い、
それはですね……か・け・お・ち……ですよ♪
 と言った。
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登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

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