フェリックスの我慢

文字数 2,067文字

 これは、屈辱だ。

 フェリックスは、今ルナにソファーに押さえ込まれている。これは、床ドンってやつだ、とフェリックスはとにかく自分の欲望に耐えるのがやっとだった。

 大好きな女の子に押し倒されて床に縫い付けられるなんて男として何たる不覚……、と思った。

 しかし、次々とフェリックスの頬にルナの瞳から落ちてくる涙が濡らしていく。

 フェリックスも限界であった。この体勢の屈辱的な感じもあったのかもしれない。

身分なんて関係ない!!好きになったら誰だって止められないの!!フェリックスだって分かってるでしょ!!なのに……簡単に身分、って言葉を出して感情を圧し殺すな!!

 フェリックスは気がついた。今までフェリックスは、身分を理由にしてルナから逃げていたことに気がついた。

 ルナは、フェリックスの胸に顔を押し当てて泣いている。この体勢も色々とフェリックスの理性さえもぶっ飛ばしそうであった。

 しかし、今はルナに謝らないといけない。今までのフェリックス自身の態度にも問題があったのでは?、と不安を覚えていた。

ごめんね……ルナさん。こんなになるまで言えなくて
フェリックスは悪くない……
っていうか……ルナさんって猫かぶり?
悪い?令嬢を演じるのも疲れるのよ!!それぐらい察してくれない?
はいはい。ごめんね……ルナさん
 ルナは、フェリックスの胸に顔を押し当てて、
嫌だ……
えっ?!俺何か悪いことした?!
私の事、「ルナ」と呼んで……そうじゃないと許さないから……
お手厳しいお嬢さんだね……
悪かったわね!!
ルナ、ごめんね。今は、恥ずかしいからこれぐらいで許してくれる?
 フェリックスは、顔を真っ赤にさせてルナの名前を呼んだ。相当呼び捨てにするのは慣れていないのもあり、恥ずかしい。

 しかし、好きな人の名前を呼べることには、フェリックスは喜びを感じた。今まで、ずっとフェリックス自身も胸を貼って「天才音楽家の再来」ということを誇りに思っていた。しかし、もうそんな事はどうでも良い。ルナが好きで仕方がない。 

 フェリックスは、未だにルナに押し倒されたままの状態になっているが、ルナも泣き止み、落ち着きを取り戻している。

ルナ……もしかして、俺を誘ってるの?
えっ、どういうこと?
この部屋には、俺とルナしかいない。アレンはカレンさんと今頃イチャイチャしているだろうね
カレンとアレンがイチャイチャするのは許さん!!
何故、ルナはアレンとカレンさんがイチャイチャする事になると必死になるの?今は、俺だけを考えていてよ?
 フェリックスの目は本気だ。怪しく光る黄金色の瞳にルナは吸い込まれそうになる。   ルナは、カレンとアレンがイチャイチャするのは嫌だ、そうだ。何故なら、カレンはルナの妹的存在で女神。女神の存在がルナの音楽を奏でる意義になっていたのだ。フェリックスは、ルナのクラリネットの音色が好きだ。透き通るような綺麗な音色。まるで天使が天界から降りてくるときに鳴っていそうな音を奏でてくるのだ。

 今は、音楽の話はおいておこう。ルナは、フェリックスに「自分だけを考えてよ」と言われ、自然とフェリックスの顔を見つめる。

(本当にフェリックスって、顔整ってるわね……黄金色の瞳・黄金色の髪・薄い唇・高い鼻・綺麗な肌……羨ましい。私なんてつり目・ニキビ数個・だんご鼻……こんな人と付き合えるなんて奇跡だわ。本当に神様、ありがとう!!これからの未来にアーメン、です……)
ルナ?
どうしたの、フェリックス。ごめんね、私すぐに退くから……
ダメだよ
えっ?えぇー!!
 いきなりフェリックスにてを引かれ、フェリックスの胸の上にルナが倒れこむ。これは、乙女のピンチ。
やっぱりルナって良いにおいがする……。もしかして、お風呂入ってきた?
えっ!?何故、分かったの?!
石鹸の香りがするからかな?
あの……フェリックス。何故、顔を近づけてくるの?
俺がルナの事好きだからかな?
 ルナの顔が爆発したかのように真っ赤に染まる。口元はワナワナしている。目はぱちくりしか出来ない。言葉が出てこない。フェリックスってこんなに変態だったっけな?、とルナは考えを巡らせる。
フェリックス、もしかして何か凄いこと考えてるでしょ?
うん……思っているよ。俺は、ルナが言うような紳士な男じゃないんだよ
じゃあ、何?言ってくれないと分からないよ?
俺は、ルナの言うような紳士な男じゃないんだよ。男は、皆狼なんだよ。例えば、こんな事だって普通に出来るんだよ?
 フェリックスは、身体を少し起こし、ルナの頬にキスを落とした。

 みるみるうちに真っ赤に染まっていくルナを見て、フェリックスはくつくつと笑っている。

どうして笑うのよ!!
いやぁ、ルナの反応が面白くて……
分かったわ……フェリックスには、私からもっと強烈な事をしてあげるわ。逃げることは許さないんだから
えっ……ちょっと……待って!!今のは、俺が悪かったから!!
 ルナの顔がフェリックスに近づいてき、唇に軽く当てるだけのキスを落とした。

 フェリックスの理性は、ここでおさらばしてしまったのであった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色