フェリックスの思い

文字数 2,032文字

 今年でフェリックスは、20歳を迎えた。20歳になったらワイン等を飲もうと思えば飲めるが、フェリックスはアルコールを嫌い、あまり飲もうとはしなかった。アルコールに飲まれるタイプの男だったからだ。一度、ルナの前でアルコールに飲まれた際に、フェリックスは大粒の涙を流して聖書を読み上げていたという。何と恥ずかしいことか……。

 フェリックスは、これでも天才と言われている。そんな彼は、貴族の生まれのルナに恋をしている。叶わない恋である事ぐらい分かっている。しかし、フェリックスは止める事が出来なかったのである。

 そして、初雪の降りしきる今日、フェリックスはルナを部屋に招き入れ、部屋に泊める事にしたのだ。何という禁忌なんだろうか……。天才音楽家の再来と言われているフェリックスであるが、恋には疎い方である。

 しかし、今日に限って何となく自分に余裕がなかったのだ。

ルナ、君は恋をしたことあるかな?
ええと……勿論ですわ。フェリックス様の言うような純粋な恋をしていますわ
嘘をつかなくてもいいよ。本当は、政略結婚させられるのが嫌なんでしょ?俺は、ルナの考えていることはお見通しだよ
やっぱりバレていたのですね……。私は、政略結婚なんて絶対に嫌ですわ!!結婚するならフェリックス様との方が良いですわ!!
やっぱりそうだったんだね。何となくそう思っていた。その相手ってどんな人なんだい?
豚みたいに太っている公爵子息。私は、あんな人と結婚はしたくない。だから、助けてください、フェリックス様!!
分かったよ。俺が何とかしてあげるよ。こう見えても俺は今、侯爵家の養子なんだ。だから、ルナを助けてあげることは出来るかもしれない。庶民出身だけど俺だって貴族の習いを学んできた。だから、ルナを助けてあげる。そんなに悲しい顔をしないで……
うん……。フェリックス様は、昔みたいに私を助けてくれますか?
勿論だよ。ルナが悲しむような事はしないから……安心してくれる?
うん……ありがとうございます、フェリックス様
 ルナの安心した表情を見て、フェリックスも安心してきた。ルナは大きな欠伸をしている。そろそろ眠る時間だ。
ルナ、アレンのベッド使っていいから寝てもいいよ
誰が眠るもんですか!!アレンのベッドで眠るなんてお断りですわよ!!
ほら、明日の練習に支障が出るよ?
分かりましたわ……お借りしますわ
 ルナは、アレンの使用しているベッドに入るとすぐに寝息が聞こえてきた。それを聞いたフェリックスは、安心して自分のベッドに入って眠ろうとした。

 しかし、眠れない。妄想と下心が溢れてきて眠れない。フェリックス自身は、これが自分の本心なのか?、と思った。

 フェリックスは、ルナの事を愛している。しかし、フェリックスは侯爵家の養子だ。身分差がある。禁断の恋とは、このような事を言うのか……。フェリックスは、大きなため息をついた。

……これは、何かの試練か?!一晩中お預けをくらう犬みたいな感じなんだけど……
 ルナの方を見るとルナは、寝言を言いながら寝ている。
フェリックス様……大好きですよ……
耐えろ、俺!!こんな誘惑に引っ掛かってはいけない……。一晩の辛抱だ
 そうキリスト教のルール……結婚前の男女が行為を行うことを禁止する。とにかくフェリックスは、一晩中我慢しないといけない。気を抜くと何をやらかすか分からない現状にフェリックスは苦しんでいた。
……ってか、ルナの好きな人って俺?!これって両片思いってやつだよね……
 フェリックスの声は、部屋に響き渡るが、誰も言葉を返してくれない。フェリックスは、戸惑った。この苦しい恋は何だ、と。
フェリックス様……むにゃむにゃ……
くっそー……何て可愛い寝言を……。少しは、なに言っているか自覚しろよな……。俺だって男なんだぞ……
 それでもルナの誘惑は止まらない。フェリックスをひたすら苦しめてくる。これだと一晩中耐えきれない……。餌のお預けをくらう犬みたいな状態だ。

 フェリックスは、耳に耳栓をさして、音を遮断した。これで眠れる、と思ったフェリックスであったが、現実は甘かった。ルナがフェリックスが寝ているベッドの方向に寝返りをうってきたのだ。神様……何て罪な人なんだ……、とフェリックスは思った。

神様のバカ……
 ルナの誘惑は止まらない。相手を誘惑しているかのような寝顔にぷっくりと膨れた唇……。これは、完全に誘惑だ。普通の男なら完全に落とされている。そんな彼女にフェリックスは必死に耐えていた。自らの自我を抑え込んでいた。

 もうすぐ夜が開ける。それがフェリックスにとっても喜びであった。しかし、ここでフェリックスは、眠気に襲われそのまま眠りについたのであった。

 ルナが起き、カーテンを開けた。外には雪が積もり、キラキラと輝いていた。フェリックスも陽の眩しさで目を覚ました。

 窓辺に大好きな人が立っている。フェリックスは、必ず大好きな人の笑顔を守ってみせる、とこの時初めて誓ったのであった。

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登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

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