賛美歌は、キリスト教(特にプロテスタント教会)において、礼拝や集会等で歌われる、神をたたえる歌のことですわ
まだ本題に入っていないのに拒否しないでくださいませ。これから、私が言う讃美歌で分かるものがあれば答えてください
アレンさんの知識は、ミジンコ以下ですわね……。讃美歌は、教会の会衆によって賛美される、世の民衆への証し的な性格を持つもの、特にプロテスタントを中心として西方教会で用いられる宗教歌を指すんですよ♪
アレンは、ミジンコ以下の知識だと言うことを知り、激しく落ち込む。本当に起伏の激しい主人公だこと……。カレンは、淡々と賛美歌について言葉にしていく。しかし、アレンはもう聞く耳すらもたなかった。
「やすかれわがこころよ」は、ジャン・シベリウスの交響詩「フィンランディア」のメロディーにのせた賛美歌なのですわ。ジャン・シベリウスが68才の時に許可をもらって曲を作ったのですわ!!ジャン・シベリウスの「フィンランディア」は、知ってますよね、アレンさん
「フィンランディア」は、さすがの僕でも分かります。重厚な金管が不穏な空気を吹き表したものですよね。「フィンランド賛歌」が有名なのも知っています
それだけの知識があれば……この賛美歌……吹けますよね?
えっ……いきなり言われても吹けません……「神はわがやぐら」でさえ微妙なんですよ……
でも、アレンさんは基礎がなってないんですわ。今日は、トランペットの音階とロングトーン・賛美歌の初級者向けの曲「神はわがやぐら」をやってもらいますわ。覚悟してくださいね♪もう逃げられませんから♪
うっ……分かりました……最後まで付き合ってください……
分かってますわ。最後まで見捨てませんから覚悟してくださいね♪ルナさんを見返しましょうね♪
アレンは、何かハードルが高いような気がした。相手は、天使の音を持つクラリネットパートのエースであるルナが相手だ。到底勝てるはずがない、とアレンは思った。それでも、カレンはサファイア色の瞳を輝かせてアレンの練習を見てくれている。それだけでアレンは嬉しかったのだ。
じゃあ、基本の音B♭を下さい。いつ吹いてくださっても良いですわよ。私は、準備万端ですから
弱々しいアレンのB♭のトランペットの音色が響く。カレンは、それを見てアレンの鳩尾に拳を押し付けたのである。
アレンは、何の抵抗もすることが出来ず、口から息がもれ、トランペットの音色も聞こえなくなっていった。
ちゃんとお腹使って吹いているのか確認しただけですわ。アレンさん、全く腹筋ありませんわね。へなへなのぬいぐるみみたいですわよ。こんな状態でトランペットを吹くなんて無謀すぎますわ。今から腹筋・背筋100回を追加します。とにかく、私が今アレンさんの講師です。言い訳は許しませんわよ?
分かりました……腹筋・背筋100回すればいいんですよね……やりますから……
アレンは、カレンに指示された通り腹筋・背筋100回を何とかやり遂げた。腹筋の最後の方で力尽きかけたが、カレンの声援のおかげで諦めずにやり遂げられたのだ。しかし、腹筋が……背筋が痛いアレンは、その場に踞るのであった。それでも、カレンは容赦なく、カレンのレッスンが続いたのであった。
カレンのレッスンが始まって1ヶ月の時が流れた。さすがのアレンでも肉体が若干引き締まり、筋肉量が増えたかのように思える。毎日、腹筋・背筋100回とロングトーン・音階練習・「神はわがやぐら」をやって来たのだ。さすがに上達していないと可笑しいのだ。
しかし、アレンの極度のあがり症が災いしてカレンに見られると曲が吹けないでいた。トランペットを吹いているときもできるだけお腹を意識して吹いているのは分かるものの、曲で誰かに見られているとなると話は別だ。アレンの極度のあがり症は、全く改善されてなかったのだ。
1ヶ月でここまでしか出来ないなんて……ひ……ひっどいですわね……
昨日の典礼の時も音が外れてましたわよ……あがり症は、治らない気がしますけど……抑える方法は思いつきましたわよ。これは、マリア様の意向に背くことになりますが、やってみてください
(一体、何をする気なんでしょうか?とりあえず、カレンさんの前であがらずに「神はわがやぐら」を吹き上げないと……)
しかし、息の吸い方が分からない。トランペットを持つ手が激しく震える。別にトランペットが重たい訳ではない。ただ、人前で楽器を吹くのが怖いのだ。また、昔と同じことになるのではないか……という恐怖感を抱いていたのだ。それでも吹かないと、と思うとアレンは緊張してしまい、吹けなくなる。「神はわがやぐら」の出だしの音が裏返ってしまった。アレンは、恥ずかしくなり、だんだんと音が小さくなっていく。そんな時、とある罵声によりアレンはこちらの世界に呼び戻されたのである。
この自意識過剰!!ミジンコ以下!!陰気!!ヘタレ!!あなたの演奏はそんなものじゃありませんわ!!
(そこまで言う……普通……。でも、何か腹立つ。いくらカレンさんだからって僕も負けてられない。打ち勝つんだ。緊張に……あがり症に……。とにかく、想像するんだ。一人で教会で賛美歌を吹いている自分を……)
アレンの音色が変わった。その事にいち早くカレンが気がついた。入団テストの時の音色だ。カレンが聞きたかった音色に近い。しかし、音はまだ緊張しているが、音域は安定しているし、賛美歌にぴったりの音色だった。
音のミスは所々にあったが、アレンは何とか「神はわがやぐら」を吹ききったのであった。
どうだったでしょうか?僕は、きっちりと吹けていましたか?
う~ん……完璧とまではいかないけど理想の音色でしたわ。今回は、及第点ですわね……讃美歌はまだまだ勉強する必要がありそうですわね。後、アレンさんには教会音楽を奏でる素質がありますわね。次回の選考を楽しみにしていてくださいね、アレンさん♪
その日の練習は、楽団全員がロバート・ルターに呼び出され、ホールに集まっていた。もちろん、アレンもフェリックスと一緒に座っていた。
今日は、次回の来週の典礼のメンバーを発表するみたいだよ。果たして、アレンは選ばれると思う?
舞台にロバート・ルターがあがってき、紙を広げる。そして、口から飛び出た言葉にアレンは度肝を抜かれることになる。
次々と楽団のメンバーの名前が読み上げられていく。アレンは、黙って聞くことしか出来ない。
次々と名前が読み上げられ、ホルンのフェリックスも選ばれた。アレンが落ち込んでいるとフェリックスがニヤニヤしてきた。はっきり言って今のアレンの心理的状況からしてやめてほしい。
最後、トランペットソロはアレンで決定じゃ。みんな、今日から練習に励むんじゃよ♪
これは夢だ、とアレンは思いきつく頬を引っ張る。痛い……って事は夢じゃなくて現実だ。戸惑うアレンであったが、練習の時間は刻々と迫るのであった。