旅路の始まり

文字数 2,069文字

    アレンとカレンは、早朝に教会を出て、カレンの故郷であるメルンという田舎町を目指した。荷物は、軽めの旅行用のバッグと楽器のみ。そして、もちろんのことこの事はロバートには内緒である。言ったら怒られる可能性もあったからでもある。

    駅に着くとさっそくアレンがカレンの分の特急列車の切符を買いに切符売り場に並んだ。メルン行きの切符を買い終わり、カレンと今日から2日間列車に乗り、メルンの町に行く。メルンは、この国メルトニアの首都・クラリアンから四十時間離れた山間にある小さな町でもある。

    列車を待っている二人の間に、長い沈黙が流れてしまう。これは、気まずいと思い、アレンは口を開いた。

カレンは、実家に帰るのが怖いんですか? 
えっ? どうしてそう思われるのですか? 私は、普通ですよ? 
ほら、だってさっきから手が震えてるでしょ?
    確かにカレンの手は先程から震えている。家族の事が怖いのは分かる。ずっと会っていないのだから。
これは、寒いから震えてるのですわ!! だって、ここに来るまで雪が降っていたの覚えていますよね
確かに雪は降っていたよ。今は、降っていないからもしかすると日の出を拝めるかもしれないですね
それは、旅をするスタートにしては歓迎してくれている気がしますね。私がこんなに落ち込んでいてはいけないですね
そうだよ!! カレンさんが元気じゃないと家族の方々が心配しますよ!!
    カレンは、笑顔で微笑みを浮かべ、
有難うございます、アレン
    と言った。
    だんだんと空が明るくなってきた。朝が近づいている。

    今日から2日間乗る予定の列車が駅舎に入ってきた。大きなバッグを持った人々たちに続き、アレンとカレンも列車に乗り込み、1つの個室に入った。今日から泊まる部屋で備え付けの2つのベッドに高級羽毛を使ったふかふかの布団。カレンは部屋に入ってすぐにベッドに腰をかけた。

ふかふかの布団だぁ~。とても触り心地が良いですわ
なら、この席がとれて良かったです。ここからメルンまでは、2日間かかるみたいです。しかし、今大寒波が来ているみたいで、もしかすると到着には時間がかかるかもしれない、って言われました
私は構いませんわ!! だって、アレンが一緒にいてくれますから!!
本当にカレンは罪な子ですね
私が罪な子でいられるのは、アレンのおかげなんですよ?
    天使のように微笑むカレンにアレンは我慢できなかった。かわいすぎるのだ……。 かわいすぎるのは罪だと思いつつ、アレンはカレンの額にキスを落とした。
えっ…… アレン?! ここでこんなところ見られたら恥ずかしいですよ!!
だって、隣の部屋もっと過激だし…… 
    2人の耳に入ってくるのは、ベッドのスプリングが激しく軋む音と激しい息づかいである。聞いている2人も恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。これは、2日間耐えられるのか不安が膨む。

    恋には貪欲であれ、とロバート・ルターが言っていたのを2人は思い出したが、そこまで貪欲にいかなくてもいいと思ってしまった。

    さて、列車は首都クラリアン駅を出発し、国境の町メルンに向けて進み始めた。風景は、徐々に町から雪原に変わってきた。外は、だんだんと明るくなり始める。クラリアンの町を出てから雪が降り始め、だんだんと強くなってきた。予想通りの天候になってきた。

    列車内には暖炉があるが、内陸部に入ってからは、寒くて仕方がない。

    アレンとカレンは、2人でベッドに腰をかけ、肩から布団を羽織っていた。無言がしばらく続いていたが、その無言をカレンとアレンが同時に破ろうとした。

あのね!!
あのさ!!
    2人の声が重なりあい、部屋に響いた。アレンとカレンは気まずそうにしていたが、最終的にはカレンがふふっ、と笑い出した事で緊張が和らぎ、アレンもカレンに笑顔を見せた。
私たち、本当にどこか似ていますわね
どこがですか?
さぁ~。どこが似ているのですかね…… 
笑いのツボが同じようなところ?
確かにそれも当たりですわ
    カレンは、悪戯な子供が浮かべるような笑みを浮かべる。
やっと笑いましたね
えっ?
だって、ここに来るまでカレンはずっと不安そうな表情をしていたから……
そうだったのですね……。 家族に会うのが不安なのかもしれないですね。でも、もう大丈夫です。アレンが隣にいてくれたら私は何でも出来ると思っていますわ
分かりました。今回の旅、何があろうともカレンを守ります。だから、安心してください!!
有難うございます。私も頑張りますから
    列車は吹雪の中を走る。風景は、何もない雪原だけが広がっている。メルンまではまだまだかかるであろう。

    2人の思いは、メルンに向かう列車の中で深まり、何があってもこの仲が壊されることはないだろう。

    しかし、まだ2人はメルンで起きる大事件に巻き込まれる事をまだ知らない。この騒動は、後に歌劇「 音楽の奇術師 」に大々的に取り上げられることになるとも知らず。
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登場人物紹介

アレン


落ちこぼれトランペット奏者。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

19歳

カレン


天才フルート奏者の女性。

落ちこぼれトランペット奏者のアレンに音楽を教えている。

とあるキリスト教の吹奏楽団で聖歌のみを演奏している。

15歳

フェリックス


アレンの友達でルームメイト。

ホルンを担当している。

20歳

ルナ


カレンのルームメイト。

クラリネットを担当している。

アレンに対して、いい印象を抱いていない。

17歳

ロバート・ルター


聖マリア吹奏楽団の指揮者。

問題児の多さに頭を悩ませている。

62歳

サラ


トランペットパートのパートリーダー。

アレンを上達させようと奮闘する負けん気の強いリーダー気質の聖女。

21歳

ギルバード


トランペットパートのメンバーでアレンの友人。

アレンの本気を出したときの音色を聴いてからアレンに憧れを抱いている。

22歳

ジョージ


カレンのお兄さん。

20歳

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