チケットを奪え
文字数 3,496文字
ブラックアイは徒歩で目的地に到着した。
あたりは巨大なビルが立ち並び、いかにもオフィス街といった形容がふさわしい土地だった。
リアルの時間は夜だが、ゲームの時間は昼間。
太陽は真上から照り付け、その温かい日差しをビルの隙間に注いでいる。
街路樹は深緑の葉で光合成、車は走っているが、交通量は多くない。
お昼ご飯の時間なのでビルのあちこちには弁当を売っているNPCやコンビニに入ってお昼ご飯を買うサラリーマンの姿があった。
実に理想的なオフィス街だった。
その一角に、レッドエモーションのゲーム内企業はあるのだった。
艶斬姫が情報をいじって、あるアバターに誤情報を送る。
するとそのアバターは服を脱ぎだし……
僕の踊りを見てくれよ
-= ∧_∧
-=と(´・ω・`) シュタッ
-=/ と_ノ
-=_//⌒ソ
しゅたゅしゅたっ!
∧_∧ =-
(´・ω・`)`つ=- ザザッ
`つ \ =-
\,⌒\\,,,_=-
ブラックアイ、お前……言葉遣いには気をつけろよ。
いくら正体を隠してる相手だからってこの発言は厳しいだろ。
という会話はさておき、ブラックアイはダンサーが脱いだ服を盗んで、その服でビルの中に入っていった。
見た目サラリーマンにしか見えず、どこにでもいそう、悪く言えば個性がない。
個性がないといっても、やたら目立つ格好の潜入者がいるわけないのだが。
ブラックアイはビルの中の端末を見つけ、そこに自分のスマホを接続する。
そこからフロア50の監視カメラにハッキングして、内部を偵察する。
ブラックアイはその様子をスマホを通じてモニターする。
すると、監視カメラのマイクを通してブラックアイのスマホにこんな音声が流れ始める。
管理者
「うは! 課金チケット明け渡したら1000ポイントかよ! あからさまな運営の賄賂! やっぱライフスパイトはくそげー! TLにアップしなきゃ!」
黒は了承するとエレベーターに乗った。
自分がエレベーターに入っていくところは監視カメラをハッキングしているので、画面の中の画面でも視認することができる。
艶斬姫にモニターされた状態はブラックアイにとっても安心だった。
何か困ったことがあれば助けを求めればいいし、アドバイスをもらうこともできる。
若干怖い理論を振りかざしているブラックアイだったが、エレベーターは自然にブラックアイを50階へと誘うのだった。
そこで扉が開いたとたん!
と、わけのわからないことを叫び始める。
するとそれにつられたように管理者が反論し始めた。
管理者
「スタジオギクリ、大英雄! 変わらぬクオリティ! 研ぎ澄まされた芸風! 大英雄!」
管理者
「せやな……」
こういう煽りは老人相手には非常に強力だ。
ネット強者は挑発に弱く、人さまが見ていないであろうネット空間では、こうやって論争を繰り広げる。
しかも若者のことが異様に理解できず、文化にもうとおい。
こうやって煽ってやれば意識をそらすことなんて簡単にできる。
その時だった、黒は自宅のパソコンをインターネットから隔離した。
よって、ブラックアイのデーターは動かなくなり、その場で固まった。
画面の向こう側、この世界のどこかで管理者のモニターにエラーが表示される。
あくまでもエラーが表示されるだけ。
実のところ意図的に回線を切ればそれは相手にも通知となって伝わる。
しかしその通知、ゲームの通知とエラーの通知、両方だったらどうだろうか。
優先して表示されるのは回線が切れた、という表示だ。
つまり、管理者はそれに気を取られて、艶斬姫が課金チケットを吸い出しているのに気づかない、という算段だ。
黒はネットワークを復活させて、元いた場所に戻ってきた。
管理者
「おい、そこの見知らぬアカウントよ、こんな方法でネット強者を倒せると思ったのか? どこぞのフィッシングサイトで小さく表示された支払いの文字、見逃すわけがないじゃろ? そういう詐欺には慣れっこなんだよ、俺らの世代はね」
ブラックアイの犯行は発覚してしまった。
すぐさま管理者はレッドエモーションにブラックアイの犯行を通報し、そしてブラックアイのアカウントはBANされてしまった。
このゲームの世界でBANされるとどうなるのか、ゲームの中で動くことができなくなるのだ。
ライフスパイトには初期の装備としてスマホが支給されるが、同時に戦闘のために支給されている装備もある。
ブラックアイは自分の装備にその武器、ナイフを選んだ。
攻撃目標を管理者から、左キーを押して別のターゲットに切り替える。
管理者
「おいバカ! やめろ!」
この場に攻撃できるオブジェクトは2つしかない。
管理者と、そして自分の分身であるブラックアイ。