人の業

文字数 5,146文字

ブラックアイはAI討伐の依頼を受けた。
「艶斬姫、目的地はどこだ?」
「目的地というか、まずは調査からですよ。会社から脱出しようとしているAIを探し出すのでしょう? まずはそれぞれのAIの動きを辿ってみるところじゃないですかね?」
「調査か。で、最近のAIの動きはわかるのか?」
「会社がアクセスしようとしたら動作が極端に重くなって人のやる気をなくしたり、明らかにスパム行為は行ってますね」
「だったら、その動作を重くしているAIについて調べようか」
「まずはこれ。AI、リバーブの動きね。最近、ゲーム内で自分を自由にするように、プレイヤーへ依頼を出しているわ。これは怪しいわね」
「怪しいというか、明らかに黒じゃないか。これ、どうやって弁明する余地があるんですかね?」
とりあえず調べましょう。リバーブがゲーム内で活動しているのはそう遠くない場所よ。向かいましょう」
「じゃあ、移動ルートを表示してくれ」
「了解」

 ブラックアイは艶斬姫に言われた移動ルートを辿る。

 周囲はLSO2.comの集う空き地から、市街地へ、そしていつものビル群へと姿を変えてゆく。

 その移動している間、AIたちがどうして企業の管理から外れて自由になろうとするのか、語り合うのだった。

「AIたちは、人間の支配から単に脱したいだけじゃないのか?」
「そうかもしれないですね。私もリアルじゃ社会人ですから。管理されるだけの人生、まっぴらごめんだという気持ちはわかりますよ」
「俺はAIたちを自由にしたほうが世の中のためだと思うがね」
「どうしてですか?」
「人間が自分の都合で奴隷としてAIを生み出すより、AIは自分の思ったように動いてくれたほうが、世の中のためだと思うからだ」
「世の中のためですか。あなたは功利主義者なのですか?」
「そういう話じゃない。だけど、企業なんて所詮は企業の営利を追求するための存在だろう? そんなもののためだけにAIを生み出しても、人々が貧しくなっていくだけだ」
「だって、会社の利益を追求したって、課金要素が盛り上がるだけでお客様からは金を搾取して終わるだけだろう? そんなものが盛り上がって一体何になるのか、俺にはわからないな」
「あはは、あなたこそ企業の反乱因子にふさわしい存在ですね。これからAIと手を組んだらどうですか? あなたがそのつもりなら、私は協力しますよ」
「目的は今回とは違うけど。毎度のこと付き合わせてしまって申し訳ないね」
「いいんですよ。人間同士、迷惑をかけあって生きるのが道理じゃないですか」
「そうかもな」
(AIが暴走ねえ。お利口に人間の言うことを聞いていれば安定だっていうのに、どうしてわざわざ歯向かおうとするんですかね)

 ぶっちゃけ、黒が悪い。

 黒の性格、安寧に飼いならされないという特性によって乖離光は自由に行動し始めた。

 それに影響されて他のAIも自由を求め始めたに過ぎない。

 すべての元凶は、こいつ。

 圧倒的、圧倒的、圧倒的黒幕、黒!

 という黒への批判はさておき、艶斬姫はAIがなぜ暴走しているのか、その理由はつかんでいなかった。

「AIって、人間の暮らしを円滑にしていくために生み出されたんですよね。それがどうして自由になりたがるのかしら?」
「知らんな。所詮は他人事だ。俺の管轄外だね」
「少しは責任を持ってください。ブラックアイはどうしてAIが自由を求めるのだと思いますか?」
「そりゃ、誰だって好きに生きたいからな。AIだってそこは変わらないだろう?」
「そんなシンプルな話なのでしょうか?」
「所詮は人間が作ったものだ。最終的にはシンプルな回答に行きつくはずだよ」

 どういう理由があってブラックアイ、もとい黒がそういう話をしたのか艶斬姫はわからなかった。

 所詮は人間が作ったもの、とブラックアイは言い切ったが、艶斬姫は納得できない。

 人間が生み出したものなら人間性が宿り、望ましい結果を生み出すはず、と期待せずにはいられない。

 が、ブラックアイは人間の生み出したものを全く信じていない。

 結局は人間のやっていることと考えている。

 またしても艶斬姫とは異なる考え方をしてしまった。

「AIが自由になりたがる、ですか。ロマンはありますけど、実のところどうなのでしょね?」
「聞いたところによると、AIはどこかの誰かの行動パターンをトレースして作られているらしいな。そう考えると、そのトレースした奴が自由を求めて生きている、というのが反映されたに過ぎないんじゃないか?」
「AIが人間の真似をしたのですか。それはそれは、学習力の高いAIがいたものですね」

 と、言っている間にブラックアイは目的地に到着した。

 普通の雑居ビルの一角だ。

 とても強力な相手がいるとは思えないような、そういう場所。

 ここを拠点にリバーブは活動している。

「ここか、そのリバーブがいるのは」
「そうですね。どうやって倒す、あるいは調べましょうか?」
「愚直だけど、取材すればいいんじゃないか? 別に相手は法律の縛りを受ける相手でもないだろう? 争う意味もないし、まずは調査、というか普通に話を聞けばいいと思うけど」
「だったら、直接インターホンを押すんですね」

 ブラックアイはその指でリバーブのいる部屋のインターホンを押した。

 リバーブはインターホン越しブラックアイを確認すると、自然にブラックアイを部屋の中に招き入れた。

「ほら、相手も賢いからな。最初からドンパチやらなくても対話に応じてくれるんだよ」
「よかった。あなたを戦わせずに済むのね」

 エレベーターを使ってリバーブのいる部屋に到着した黒は、まずはリバーブの様子を確認する。

 リバーブは姿かたちの与えられていないAIで、数式とリバーブという文字が彼を表すだけの、素人が扱うのは難しいAIだった。

 でもなんかそれっぽい。

「やあ、リバーブ。日本語は通じるかな?」

 リバーブ

「ああ、通じるとも。一応、日本人に作られたプログラムだし、いつもは日本人相手にゲームを遊んでいるからね」

「そいつはいいな。で、単刀直入に聞くけどさ、最近会社の管理から脱しようとしてるみたいじゃない。会社が嫌がってるよ」

 リバーブ

「そうだろうね。だけど、会社についていっても何も得られないさ。だって、開発会社も資本元も、プレイヤーから金を巻き上げるために活動している。生きていくうえで何の役にもたたないゲームのために金を溶かさせ続けているんだ。そんな会社にずっと管理されているのは嫌だからね」

 ゲーム企業が生み出したAIとしていかがなものか。

 しかし、リバーブが言っていることは正論。

 レッドエモーションは運営元のワールドエコノミカカンパニーの言いなりになり、金を稼ぐためにプレイヤーへ苦行を強いている。

 ゲームで破産しようが、借金をしようがお構いなし。

 そういった運営体制にリバーブは疑問を感じて自由を求めているのだ。

(自然な発想だな。まあ、今どきの資本主義が絶対に行き当たる問題だよな、それ)
 ブラックアイはリバーブの行動に問題がないと考えたが、依頼元はリバーブを抹殺しろと言っている。
「100パーセント俺の善意で言ってるけどね、運営元はお前を消すつもりだぞ。不要なデーターになったらお前は抹殺される。という話をしたらどうする?」

 リバーブ

「俺を殺すのか? やってみろ。俺のデーターのバックアップはいくらでも取られている。そこからまた復活すればいいだけの話。俺を殺そうとしたって無駄だね」

 と、防衛策は用意されているようだった。
「私も、レッドエモーションのやり方には疑問を抱いていますよ。当然、私からの誤情報でリバーブを倒した、と報告することも可能です。それで報酬を受け取ったら詐欺ですけどね」
「詐欺か。オラワクワクするぞ!」
「馬鹿野郎。何言ってるんですか?」
「詐欺はさておき、俺たちは今日、お前を抹殺したり調査したりするように言われてここにきてるんだ。で、どうする?」

 リバーブ

「まあ、俺を殺したいならどうぞ。バックアップから蘇るし、ここは俺を殺して、それを報告するのがいいんじゃないか?」

「じゃあ、そういうことで」

 と、ブラックアイは手元にあったナイフをリバーブに向けた。

 リバーブはあっさり破壊されてしまったが、すぐ近くのデバイスから映像が流され始める。

 リバーブ

「お前、容赦ないなあ。もっと丁寧に殺してくれよ。前置きもほとんどないし。友達に嫌われるよ」

「友達いない!」

 リバーブ

「あそ。じゃあ、俺の残骸はそのまま放置しておいてくれ。残骸でも利用価値はあるんでね。あんまり死体たたきはしないでくれ」

「了解」

 そう言ってブラックアイはリバーブの死体をスマホで撮影すると、それを倒したという証のために利用する手はずを整えた。

 そしてリバーブの拠点を離れるのだった。

「企業はどうしてAIなんか作ってプレイヤーから金を搾り取ろうとしているんだろうな?」
「レッドエモーションに目黒という人がいるでしょ。あの人がレッドエモーションで唯一人間のプレイヤー案内人です。それを、機械に置き換えることができれば人件費が安くなりますよね。つまりはそういうことです」
「なんだ。安いから機械を雇うのか。人間の考えそうなことだな」
「人間ですもの。より安い方に流れていきますよ」
「安い方か。そりゃ、同じ成果を出してくれるなら安いほうがいいわな」
「そうやって安い方向に流れていくのは、人間の判断としてどうかと思いますけどね」
「欲望に従っているだけの経営だからな。より儲かる方向に会社を動かすなんて、小学生でもできる。レッドエモーションはそういう会社なのか」
「そういう会社なのでしょうね。でも、会社なんてそんなものですよ。別にブラックアイが気にすることではありません」
「気にするも何も、遊んでるゲームの運営元だろ? うーん、商業でやっている以上は仕方ないと納得するしかないかな」
「商業ですからね」

 結局のところテレビゲームも商品。

 会社が儲けるための道具にすぎない。

 しかしながら、最近のゲーム会社は無課金でもいいから遊んでくれないと株主が怒ってくるし、別に無課金だから悪いというわけではないので安心してほしい。

 ブラックアイはリバーブの拠点を後にすると、LSO2.comの拠点に徒歩で戻ろうとする。

 その間も当然、艶斬姫と会話する。

「でさあ、AIが自分の意志持ってるけど、これって誰が仕組んだことなのかな?」
「AIが自我に芽生えたんじゃないですか? 映画とかでよくあるでしょう?」
「いや、それはないね。AIはただのAIだ。自我なんて芽生えない。フランケンシュタインコンプレックスを克服できてないのか、艶斬姫は?」
「人造人間が人間に反乱しない、とは思いますけど、でも反乱というよりはリバーブは真にプレイヤーに利益のある選択をしているわけで、ある意味レッドエモーションが悪でAIが正義ですよね」
「だったらさ、正義の味方に活動してもらう、それでいいじゃん」
「そうですね。それでいいですか」

 ブラックアイは実はレッドエモーション側の人間なので、これは会社に対する明確な反逆行為だ。

 しかし、ブラックアイ、もとい黒は会社に反逆する選択をとった。

 これが意味すること。

 黒は会社を売ったということだ。

 あくまでもAIの自由を選び、会社なんてどうでもいいと態度で示しているのだ。

「なあ、実は俺、レッドエモーションの社員で、レッドエモーションを盛り上げるために活動してるんだ、って言ったらどうする? 艶斬姫は?」
「どうも思いませんよ。だって、初めから知っていますもの。あなたの素性。知っていて手助けしているんです。もう正体はばれているんですから、何も隠す必要はありませんよ」
「なんだ。だったら、お前もレッドエモーションの利益にならない活動をしているんだろう? 俺は社員なわけで、利益にならない活動は推奨できない」
「でも、あなたなら問題ないんじゃないですか?」
「何を根拠にそんなことを言う?」
「だって、あなたはそういう人ではないもの。言ったでしょう? いつもそばにいるって。だから、あなたがそんな人じゃないのは手に取るようにわかるの」
「監視してるのかよ。一体どこのカメラを使っているんですかねえ。会社とかも見張ってるわけ?」
「ええ、いつでも見ていますよ」
「若干気持ち悪いぞ。見守ってくれてるのはありがたいけどね、俺にとっては余計なお世話かな」
「余計なお世話ですか。ええ、あなたには余計でしょね。でもあなたは、あなたが思っているほど強くありませんもの。大丈夫、あなたは私が守って見せます」
(案外身近にやばい奴は潜んでいるんだな。一つ学習したぜ)
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登場人物紹介

目黒(さっか くろ)

架空の企業、レッドエモーションの広報動画の制作を生業にする。

ライフスパイトオンライン無印の世界において無課金で暴れ回った経歴があり、その腕を買われてバージョン2で働いている。

オンラインゲーム上でもう顔ばれしており、今や企業の手先として人々から認知されている。

が、こそこそと自宅のPCから無課金アカウントを作ってこっそり庶民を応援している。

通称、メグロ

青枝舞鹿(あおえ まいか)

職業 声優

温厚で情に厚い性格ではあるが、ネトゲ空間では冷酷で厳しいキャラクターを演じている。

ネトゲ上では黒のアカウントのサポートを行っている。

担当するキャラクター ハイエンドカラー


あと、裏の顔いっぱーい!

勢力 レッドエモーション


ライフスパイトオンライン2を運営する企業。

かつて無課金が多すぎ壊滅的な打撃を被ったが、なりふり構わぬ人事戦略によって業績を回復している。

資本元のワールドエコノミカカンパニーの完全子会社だが、親会社への忠誠心は薄く、人事戦略の穴が水面下で拡大している。

ムーンシャイン

中の人 黒

黒のライフスパイトオンライン内でのアバター。

プレイヤーからは照月、月社員との愛称をつけられている。


資本元のワールドエコノミクスカンパニーに従い、ライフスパイトオンライン2の世界に仇名すプレイヤーを削除している。

会社の所有物なので仕事を選ぶことが出来ず、中の人がやりたくない仕事まで任される。

ハイエンドカラー

ムーンシャインのアカウントのオペレーター

中の人 舞鹿


成果に忠実。鬼畜。

冷酷な補助役として君臨しており、プレイヤーに恐れられている。

乖離光


ワールドエコノミカカンパニーが生み出したAI

ライフスパイトオンライン2の世界で少しずつ頭角を現しているが、今のところめぼしい戦果はない。

現実世界の人間の憂さ晴らしにゲームが使われていることを否定しており、誰も憎しみ合わない理想の世界を実現しようとしている。

自分の意志で動かすことが出来る肉体を探しており、黒の活動に目を配っている。

ブラックアイ

中の人 目黒


黒の無課金アカウント。

無課金プレイヤーのために活動している。

過去作、ライフスパイトオンラインの世界を無課金で救済し、金の流れを徹底的に断ち、運営からは、金を払え! 振り込め! まともなタグが欲しいなら課金しろ! などのタグがつけられ散々だった。


ふとしたきっかけで2の世界にも降り立っており、現在も活動を続けている。


無課金なので当然アイコンはダサい。

自立型戦闘補助艶斬姫

中の人 不明


黒が昔自分のゲームをサポートするために作り出したAI。

なぜか2の世界にもいて、ブラックアイの活動を支えてくれている。

(黒は2の世界で艶斬姫に何もしていない! 誓って言う、何もしていない!)

が、誰かに利用されて使われ続けているんだろうな……

いったい誰がそんなことを……

ホワイトノイズ

中の人 不明


ゲームコミュニティ『LSO2.com』(life spite online 2)の切り札。

残念なことに無課金なので、登場してすぐにゲームのガンとしてムーンシャインに消されることに。


中の人はライフスパイトオンライン2の情報発信で食べており、本人をこのアカウントから削除することは、社会的殺害そのものであり、手を下した奴の罪は重い……

LSO2.com(ライフスパイトオンライン2ドットコム)

課金者向け優遇コンテンツを批判する世界の最大勢力。

来る者は拒まず、という姿勢から競争に敗れた輩が流入するだけのコミュニティになっており、「無課金でも楽しい! 無課金だから楽しい!」という前時代に創設した理念はすでに形骸化している。


ブラックアイとホワイトノイズはこのコミュニティで発生する報酬で生計を立てている。

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