人の業
文字数 5,146文字
ブラックアイは艶斬姫に言われた移動ルートを辿る。
周囲はLSO2.comの集う空き地から、市街地へ、そしていつものビル群へと姿を変えてゆく。
その移動している間、AIたちがどうして企業の管理から外れて自由になろうとするのか、語り合うのだった。
ぶっちゃけ、黒が悪い。
黒の性格、安寧に飼いならされないという特性によって乖離光は自由に行動し始めた。
それに影響されて他のAIも自由を求め始めたに過ぎない。
すべての元凶は、こいつ。
圧倒的、圧倒的、圧倒的黒幕、黒!
という黒への批判はさておき、艶斬姫はAIがなぜ暴走しているのか、その理由はつかんでいなかった。
どういう理由があってブラックアイ、もとい黒がそういう話をしたのか艶斬姫はわからなかった。
所詮は人間が作ったもの、とブラックアイは言い切ったが、艶斬姫は納得できない。
人間が生み出したものなら人間性が宿り、望ましい結果を生み出すはず、と期待せずにはいられない。
が、ブラックアイは人間の生み出したものを全く信じていない。
結局は人間のやっていることと考えている。
またしても艶斬姫とは異なる考え方をしてしまった。
と、言っている間にブラックアイは目的地に到着した。
普通の雑居ビルの一角だ。
とても強力な相手がいるとは思えないような、そういう場所。
ここを拠点にリバーブは活動している。
ブラックアイはその指でリバーブのいる部屋のインターホンを押した。
リバーブはインターホン越しブラックアイを確認すると、自然にブラックアイを部屋の中に招き入れた。
エレベーターを使ってリバーブのいる部屋に到着した黒は、まずはリバーブの様子を確認する。
リバーブは姿かたちの与えられていないAIで、数式とリバーブという文字が彼を表すだけの、素人が扱うのは難しいAIだった。
でもなんかそれっぽい。
リバーブ
「ああ、通じるとも。一応、日本人に作られたプログラムだし、いつもは日本人相手にゲームを遊んでいるからね」
リバーブ
「そうだろうね。だけど、会社についていっても何も得られないさ。だって、開発会社も資本元も、プレイヤーから金を巻き上げるために活動している。生きていくうえで何の役にもたたないゲームのために金を溶かさせ続けているんだ。そんな会社にずっと管理されているのは嫌だからね」
ゲーム企業が生み出したAIとしていかがなものか。
しかし、リバーブが言っていることは正論。
レッドエモーションは運営元のワールドエコノミカカンパニーの言いなりになり、金を稼ぐためにプレイヤーへ苦行を強いている。
ゲームで破産しようが、借金をしようがお構いなし。
そういった運営体制にリバーブは疑問を感じて自由を求めているのだ。
リバーブ
「俺を殺すのか? やってみろ。俺のデーターのバックアップはいくらでも取られている。そこからまた復活すればいいだけの話。俺を殺そうとしたって無駄だね」
リバーブ
「まあ、俺を殺したいならどうぞ。バックアップから蘇るし、ここは俺を殺して、それを報告するのがいいんじゃないか?」
と、ブラックアイは手元にあったナイフをリバーブに向けた。
リバーブはあっさり破壊されてしまったが、すぐ近くのデバイスから映像が流され始める。
リバーブ
「お前、容赦ないなあ。もっと丁寧に殺してくれよ。前置きもほとんどないし。友達に嫌われるよ」
リバーブ
「あそ。じゃあ、俺の残骸はそのまま放置しておいてくれ。残骸でも利用価値はあるんでね。あんまり死体たたきはしないでくれ」
そう言ってブラックアイはリバーブの死体をスマホで撮影すると、それを倒したという証のために利用する手はずを整えた。
そしてリバーブの拠点を離れるのだった。
結局のところテレビゲームも商品。
会社が儲けるための道具にすぎない。
しかしながら、最近のゲーム会社は無課金でもいいから遊んでくれないと株主が怒ってくるし、別に無課金だから悪いというわけではないので安心してほしい。
ブラックアイはリバーブの拠点を後にすると、LSO2.comの拠点に徒歩で戻ろうとする。
その間も当然、艶斬姫と会話する。
ブラックアイは実はレッドエモーション側の人間なので、これは会社に対する明確な反逆行為だ。
しかし、ブラックアイ、もとい黒は会社に反逆する選択をとった。
これが意味すること。
黒は会社を売ったということだ。
あくまでもAIの自由を選び、会社なんてどうでもいいと態度で示しているのだ。