レッドエモーション方針会議
文字数 4,816文字
レッドエモーション
「おはよう目黒。出社していきなりで悪いね。お前にメッセージ。ワールドエコノミカカンパニーから。何か面白い話を目黒さんあてに持ってきているみたいだ。詳細は今からテレビ会議にて。それじゃあよろしく!」
レッドエモーション
「落ち着け、目黒さん向けに楽しい戦いのお話らしいから。聞いておいて損はないよ」
なんて会話があくる日、目黒とレッドエモーションのオフィスで行われた。
レッドエモーション
「そう来なくっちゃな! じゃ、テレビ会議室に今すぐ行け。急な予定だから今日の午前しか空きがない」
レッドエモーション
「資本関係のわがままが先だ。金がなくちゃ会社は何もできないよ」
そんなわけで権力者の言いつけに従い目黒は社内のテレビ会議室に入る。
テレビ会議室には2つのチャンネルが表示されていた。
一方は会社、もう一方はAI向けに。
ここは乖離光のデーターを消去した部屋の隣りだったりする。
狭い会社内なのでよくあることだが、目黒は急な予定変更でうんざり。
半ば悪態をつきながらその場にいるのだった。
すると別のレッドエモーションの上司の回線につながった。
レッドエモーション
「やあ、君が目黒君だね。よろしく。私はレッドエモーションとワールドエコノミカカンパニーの橋渡しを行っている者なのだが、これから目黒君に頼む仕事が決まったよ。さ、乖離光。出席してくれ」
レッドエモーション
「そろそろ世間話は終わりにしてください。話を始めます」
レッドエモーション
「実は弊社の広報のために乖離光と目黒さんを利用しろと資本元のワールドエコノミカカンパニーから通達がありました。今後はお二人には弊社の考案したシナリオ案に沿てお互いに争っていただきます。乖離光さんは自由になったAIを率いて、目黒さんのブラックアイはLSO2.comに参加してもらってです」
レッドエモーション
「わかりませんよ。ただ、私たちは私たちにできることをやるだけです」
レッドエモーション
「1週間以内にシナリオライターがシナリオを作ってくるのでその通りに動いていただければと思います」
レッドエモーション
「それでは。話はそれだけなので。すべて決まり次第、お二人には動いてもらいます」
その場の会議はこれで解散になった。
レッドエモーションの上司はその場を去り、会議室には目黒と乖離光だけになった。
目黒は愛なんて言葉に感情を揺さぶられる人間ではないのだが、近ごろの舞鹿の言動を見ているとほんの少しだが気持ちが揺れてしまう。
自由を望んでいるが、舞鹿の愛を受け入れて束縛されるのもありだ。
目黒は会議室から出る。
ほんの少しの脱力感と、これから試合が控えていることへの期待、そしてこれから自分がどうやって人と関わっていくのかという悩みとが目黒の中に渦巻いていた。
目黒は人間の手に負えない獣だ。
人間の倫理観や道徳、善悪、そういったものを理解しない獣のような人間。
それはそれで自由に生きていて美しいのだが、それゆえに苦しんでいる。
ひょっとしたら、黒は人間になろうとしているのだろうか?
目黒は少し落ち着いてそれから自分のデスクに戻った。
今日の広報作業を丁寧に済ませて舞鹿にチェックをもらいに行こうとする。
違うぞ目黒、お前が今までそれを隠していたから舞鹿は泣こうとしているんだ。
目黒は性格が荒れているけどいいやつだよ、でも優しさで人を傷つけることもあるんだよ。
いつのことなのかは目黒も思い出せないが、ある日、膨大な精神的エネルギーを費やして、絶望してでもなんとか生きていこうと決断した。
生きることに何の望みがなくても、稼いで飯を食うという苦境に身を置くことになるとしても、それでも死ぬまでは生きていこうと決心した。
それがゆえに、今こうして大切な人を泣かせている。
涙の重み、涙という信頼している人にしか見せない自分自身の弱み。
舞鹿にとってそれを晒せるのは目黒だけ。
そりゃそうだな。
戦うしか脳のない生き物が人の心なんて理解するわけがない。
でも、乖離光が目黒に人の心を与えたのかもしれない。
誰かをライバル視することは人間にしか起こりえない心境だ。
乖離光の存在が戦うしか脳のなかった目黒をわずかながら人間に近づけてしまった。
それゆえに目黒は舞鹿を受け入れているし、自分自身のことも少し考えなおせるようになっている。