侵略
文字数 4,814文字
仕事なんて世間のためにやるもの。
自分へのリターンは間接的にしかやってこない、だるいと思うが正常な反応。
そんなある種の病み感情を抱えて黒はデスクにつく。
今日は舞鹿は出社しておらず、実況は行われないだろう。
黒は本日、自由に仕事を進められるのだ。
黒は舞鹿を担当しているもっと偉い人に連絡をとる。
管理者のデスクに行って、現状自分が暇なことを伝えたのだ。
ところが、上司は黒に何も指示はしなかった。
ムーンシャインのデーターを走らせる。
黒の自宅のパソコンと違ってムーンシャインは瞬く間にそのパソコンに読み込まれる。
ムーンシャインは掲示板を漁って、目についた依頼を受ける。
ゲームの内容はそうだが、ゲームの内容を外れるミッションまで受注可能になっており、レッドエモーションで不要になったHDDを引き取ってくれ(5000円)や友達募集(無料)などの意味不明なクエストが目立つが、その中に興味深そうなミッションが投下されていた。
しかしながら、無課金とは言っても遊んでもらえば何かしらの利益は会社にもあるわけで、この依頼はゲーム会社の人間として許するわけにはいかなかった。
黒は早速、依頼元の連絡先にリアルの電話で問い合わせるのだった。
レッドエモーション
「いやほら、3話で主要キャラ殺せ、みたいな話があるだろう? ライフスパイトオンラインもそういう状況に入ってきてるし、ここは誰かに死んでもらおうと思ってね。なあに、LSO.comにも悪役をやるように金を渡してある。というわけで抹殺して」
レッドエモーション
「えー、そんなー! もう予告編公開するように告知しちゃったよ! いまさら変更できないね。大体、まともな広告案を提出できない広報担当が悪いんでしょ?」
レッドエモーション
「そうだよ。というか、別に目黒が責任感じなくていいんじゃないか? 広報の責任は青枝だろう? 青枝のせいにしちゃえよ。そんなことより、今度会社でやるBBQには参加するのか?」
レッドエモーション
「気にするな。青枝にはお前より多くの給料を払っている。ということは、責任を取るのは青枝だ。お前じゃない。お前が気にすることじゃないのさ」
黒は少し強い言葉を使った。
そこには若干の怒りという感情があった。
内線を握る手に力が入るが、それもほんの少しだけ。
彼は感情のコントロールがうまい。
激昂こそしないが、その感情をうまく相手に伝えようとしている。
レッドエモーション
「人を操ろうとしているのはそうだ。俺は偉い人だからな。だが、そこまで言うんだったら話を聞こうか?」
レッドエモーション
「面白い。やってみればいいじゃないか。まあ、どのみち集まってくるプレイヤーはどんな企画でも限られてくる。一応、失敗したら減給ということはないから安心しろ」
レッドエモーション
「当たり前やん。気にしまくりだよ」
レッドエモーション
「お前が広報担当として命を燃やしながら戦ってしまうから、青枝は乗り気ではないだけなんだ。お前だって自分の兵隊が死ぬのは見たくないだろう?」
と、偉い人は意味深なことを言ってきたが、黒はそんなこと気にしなかった。
しかしながら、これはかなり重要な話をしていたのだった。
黒が全力で、死に物狂いでムーンシャインを演じてしまうので、舞鹿も黒の体力に気を配って、あえて仕事の量を減らしているのだ。
そんなこと知らないで、働かせろ、もっと言ってしまえば戦わせろと叫ぶ黒を舞鹿は心配しているのだ。
レッドエモーション
「まあ、お前がどうしてもというなら、やらせてやらないこともないけどね」
レッドエモーション
「じゃあ、目黒さんのほうからLSO.comのリーダーに連絡しておいて。俺忙しいから」
と、トークノベル越しでも彼女の怒りは伝わってくる内容だった。
ブラックアイだった時、あれだけ優し方相手が突然きれてくるのは、これも覆面をかぶっている業。
と言いつつも、高度な方法で相手の精神を分析し、それにダイレクトな表現を出したこと。
それを黒も悪いと思っているが、どういうわけか、相手の憎しみを引き出す言葉を投げかけてしまった。
それがなぜなのか、それは読者の想像力に任せる。
と、ここでホワイトノイズからのチャットが途絶えた。
ホワイトノイズがムーンシャインの心中を察してしまったからだ。
少しの沈黙の後、ホワイトノイズはこう切り出した。