死の壁
文字数 5,476文字
と、ハイエンドカラーのオペレートがプレイヤーのイヤホンやヘッドホンから響き渡った。
今日はレッドエモーション主催のレッドエモーションを破壊するイベントの開催日だった。
企画、原案、目黒。
そしてさきほどのハイエンドカラーのセリフはムーンシャインだけに流されているものではない。
LSO2.comのメンバー全員に流されているのだ。
レッドエモーションの本社にレベルの高い戦闘部隊が突入を始めた。
正面はゲートで閉ざされているが、誰かが警備プログラムをハッキングしてすぐさま扉を開けてしまう。
ホワイトノイズは迷わず戦線から飛び出して、ロボットが出てくる前にH&K416に取り付けた榴弾砲の引き金を引いた。
榴弾砲は飛んで行って、ロボットが出てくるでろうポイントに着弾。
ロボットのライフは削れ、すぐさま自爆を開始した。
ムーンシャインは会社から支給された最高の装備、ロケットランチャーを警備ロボットの群れに向かって発射した。
その爆風はロボットが展開しつつあるバリアごとその機体を吹き飛ばし、自爆機能ごとその動きを止めた。
その時だった。
ロボットの一体が球状のまま10体こちらに転がってくるのだ。
破壊しろ、と言われてもハイエンドカラーは榴弾を撃ち尽くし、ムーンシャインも攻撃力の高い兵器を撃ったばかりなのだ。
すぐさま次の行動に移れるわけではない。
混乱する戦場、吹き荒れる硝煙の香り。
少なくともムーンシャインはその場から撤退し、戦線から消えた。
そして、次に姿を現したのはレッドエモーション本社の屋上だった。
屋上には最低限のバリケードに固められた爆破すべきポイントがあり、そこからビルのふもとのプレイヤーにミサイルが放たれていた。
デザインが微妙で適当な砲塔が備え付けられただけの簡素な代物だったが、まあ、予算の関係上仕方がないだろう。
フリー素材で拝むことができるものなのは言うまでもない。
当然、そこに割り振られた攻撃力はすさまじいものだが、それも接近されてしまえば終わり。
ムーンシャインはこうやって接近してそれを破壊しようとしている。
ムーンシャインはアイテム欄から高性能火薬を選択して使用できる状態にしようとする。
その動作自体は軽く行えたが、それをハイエンドカラーが止める。
目の前に現れたのは正体不明のAI 乖離光だった。
相手の目的が何なのか理解しないままでは話が進まないので、ムーンシャインは軽く質問をする。
乖離光はアイテムから対物ライフルを選択して、無造作にミサイル基地に向けてその1発しかない弾丸を放った。
ミサイル基地は破壊された。
ムーンシャインもアイテム欄から拳銃を選択して乖離光に向き合った。
お互いの銃口がお互いに向く中、その距離は少し離れていて正確な射撃は不可能な状態。
まずはお互い相手の射程の中に入らなければいけない。
特に拳銃は射程距離が短いし、乖離光の射撃の腕もあまり高くないので近づかなければならないのだ。
武器がライフルなら長距離でも狙えるが、護身用の拳銃ではそういうわけにはいかない。
ムーンシャインは乖離光から視線を離さず、その姿を凝視する。
ナイフの動きを気にして視線を逸らせば、弾丸の餌食になることはわっかっている。
次どんな攻撃が飛んできてもいいように、微動だにせず、攻撃に備える。
その時だった。
突然、ムーンシャインのライフポイントが0になった。
黒は一息つかなければ精神が持たないほど徹底的にショックを味わったのだ。
それだけ乖離光の作戦はうまくいった。
イベントはうまくいったが、黒はAIに出し抜かれるという痛々しい醜態をさらしてしまったのだ。
まあ、最近はAIも難易度を上げていくと無駄に強いので落ち込まなくてもいいと思う。
ほら、たまにいるだろ?
一人で勝てば賞金が全額手に入るからって、マッチ戦で友達をAIにするやつ。
世の中、そういうレベルでCPUが強くなっているので、別に黒は落ち込まなくてもいいんじゃないかな?
黒が飲んだ飲み物は体に染み渡るが、それは勝利の美酒ではなく、敗者だけが味わう苦汁に過ぎなかった。
なぜか?
どこかの誰かが急遽イベントを開催したおかげで、スケジュールがひっくり返って、一部の部署が残業をしたのだろう。
レッドブルは売り切れて、黒はコーヒーを飲まざるを得なくなったからだ。
苦いというのは暗喩ではない。