第6話 謙介3

文字数 1,767文字

 翌日、クラブから審査を通ったとの連絡があった。
 送金を確認次第、前日登録したメールアドレスにパスワードを送るので、それでホームページの会員ページにログイン出来、女性の写真や動画を見られるとのことだった。
 会員レベルは何にするかと聞かれたので、とりあえずはシルバーでお願いすると答えた。
 何も分からないのに、大金は払えない。
 
 入会金を振り込むと、すぐにメールがあった。
 謙介はわくわくし、どきどきしながら、ログインした。子供の頃初めてエロ本を見た時の興奮と期待とスリル、それに背徳感が混じったぞくぞくする感覚に似ている。

 女性の一覧写真が出て来て、それを見て、まず驚いた。
 こういうクラブに登録しているのは、前日に見たモデルのような特殊な職業の人やキャバクラや風俗などナイトワークをしている女性、ギャルと呼ばれるケバイ女の子だけだと思っていた。
 しかし、そういう人の方が少数で、多くは地味で、その辺りにいそうな普通の女性だった。
 20歳の大学生や短大生、専門学校生も多くいる。
「行かんだろ。こんなところに登録して、パパ活なんかしたら」
謙介は自分のしていることなど忘れて、つい呟いてしまう。
 これからデートに行くというより、「スーパーに豚コマを買いに行ってきます」という表現がぴったりの太った中年女性もいたし、ただのおばあちゃんではないかという女性もいた。
 女性と会うには入会金とは別にセッティング料をクラブに払わなければならない。
 セッティング料は女性によって異なるが、最低でも2万円はいる。
 蓼食う虫も好き好きというが、こういう女性にお金を出してオファーするもの好きもいるのだろうか?
 何もかも驚きの連続だった。

 女性には交際タイプが書かれていて、Aタイプは大人の付き合いは一切しないということ。Bタイプは初めて会った時は大人の付き合いはしない、2回目以降は分からないというタイプ。Cタイプはフィーリングが合えば1回目からオッケー。Dタイプは大人の付き合いに積極的ということだった。
 地味でおとなしそうな学生や若い会社員でDタイプの人もいる。
 こういう世の中になったのか。
 また自分のことは棚に上げといて、謙介は嘆かわしい気持ちになった。

 確かにブラックの女性は容姿の美しい人が多い。しかし、ずっと画像をスクロールしても先日見たモデルの女性はいなかった。
 もしかして詐欺に引っかかったのかと疑ったが、ホームページをよく読むと、写真を公開していないシークレットという女性達がいることが分かった。
 特別な職業についている人は交際クラブに属していることがバレるのを恐れて、極力顔を出すのを嫌がる。
 彼女達の写真を見るには、ブラックランクになり、さらに希望を出さなければならないとのことだった。
 ブラックになるには20万円もの追い金を納めなければいけない。しかも、女性とのデートが決まればブラックの女性だとセッティング料で平均10万円は必要とのことだったので、そういう女性と会うにはさらに30万円も必要である。
 謙介にとって、それは大金であった。
 しかし、普段出会うような女性と付き合うのは気が進まなかった。
 死んだ家内が「浮気するなら、自分が敵わないと思う人としてくれ」と言っていたことを思い出した。家内の父親が母親より歳上の器量の悪いがさつな感じの水商売の女と長年浮気をして、母親が泣いていたのを知っているからだった。
 それで、自分と年齢の近い女性は亡き妻に悪いような気がした。
 また、大学生のような若い子にオファーするのも憚られた。以前、重鎮の政治家が二十歳くらいの女子大生と援助交際をしてラブホテルから出てくるのを写真に撮られていたのを雑誌で見たことがある。
 その時、「このジジイ、色気狂いか?孫もいるだろうに。恥を知りなさい」と、どこかの女性政治家のようなセリフを言いたくなった。その時のことを思い出し、女子大生にオファーするのは、この政治家と同類で、恥ずべきことのように思われた。
 散々迷った挙句、芸能人やモデルやレースクィーンのような普段出会うことのない職業の人の方が非現実的で罪悪感がなくていい。家内も仕方ないときっと許してくれるだろう。
 そう思い、謙介は追い金を支払い、ブラック会員にランクアップすることにした。
 
 
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