第20話 謙介9

文字数 1,090文字

 謙介は、まいとメールでやり取りを続けていた。 
 といっても、彼女からメールが来ることはなかった。いつも彼がメールを送り、彼女から返信が来るだけだった。
 仕事が終わり1人で晩飯を食べている時に、よくメールを送った。彼女からはすぐに返信が来る時もあったが、翌日になることもあった。 
 なかなか返信が来ない時は、彼女に嫌われるようなメールをしたかなと不安になったり、男とデートしているのではないか、彼氏かパパかなどと妄想を膨らませて苛々したりした。
 
 最初は三日にあげずにメールを送っていたが、ある時、ホステスや風俗嬢が嫌う客の上位に、頻繁にメールを送ってくる客、それも日記のようなメールを送ってくる客が入っていることをネットで読んだ。
 そう言えば、自分も日記のような内容のメールを送ることがあった。というより、そういう内容ばかりである。
 「今日は暑かったよね」とか「休みで一日中家の掃除をしていました」とか、写真付きで「今、カレー屋でカツカレーを食べています」「1人焼肉をしています」と食レポようなものを送ったこともある。
 
 彼女から同様のメールが送られてくることもあり、それは彼女の日々の生活の様子が分かるので大歓迎だし、自分に知らせてくれたことをありがたくも思い、とても嬉しい。
 しかし、ただの客から頻繁にそういうメールが来ても、迷惑なだけ、所謂ウザいというだけなのだろう。
 まいも自分のことをそう思っているのだろうか?
 しかし、まだ一度しか会っていない。こうしたメールのやり取りでお互いを知り、関係が深まってゆくのではないだろうか?
 そう思ったが、必死に自制して、メールは5日に1度くらいに控えた。
しかし、メールを送らずに我慢していると、会いたい思いが募るばかりだ。
 
 今年はちょうど義父の13回忌、家内の7回忌にあたるが、7月に入ってすぐ、義母からお盆にまとめて二人の法事をしないかとの電話があった。
 義母は一旦言い出したら聞かないし、費用も手間も一度に済ませた方がかからないし、娘も息子も2度帰省させるのは悪い。特に娘の亜美は北海道に住んでいるので申し訳ない。それももっともだなと思い、義母に同意した。
 ただ、盆休みは昼間からまいに逢いに行こうと思っていたのだが、それが出来なくなるかもしれない。 
 どうせ夜だけしか会えないのなら、もっと早く会いたい。そう思い、来週の土曜に東京に行くことにした。
 会うという大義名分があるので、遠慮することなくメールを送れた。
 彼女からは「その日大丈夫です。ありがとうございます。会えるのを楽しみにしています」とすぐに返信があった。
 
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