第43話 ヒロト22

文字数 1,049文字

「なんで、ここに多田さんがいるのよ?」
 龍一が口を尖らせた。
「いやあ、みな子がもうオークションをしないし、みな子が卒業したら、まい姐に推し変しようと思って」
「あ、リクも。お前はなんで?」
「ルビたんが辞めてから推しがいなかったのだけど、そろそろ誰か推そうと思って」
「麻衣でなくていいだろ。若い彩や梨乃に行きなよ」
「いやいや。まい姐みたいな大人の色気むんむんの女性と一度デートしたかったので」
 龍一は舌打ちをした。
 そんなやり取りをガロは苦虫を噛み潰したような表情で黙ったまま聞いていた。
 ガロも古参の多田さんには一目置いていたし、多田さんに一度言い込められたことがあり、それからは苦手にしているということを聞いたことがあったが、その噂は本当だったのだなと思った。いい気味だ。
 最後に来たまっさんが「おお、今日は大勢いますね」と笑った。

 ジャンケンが始まった。参加者は10人もいた。
 なかなか決着がつかないのではないかと思ったが、3回目であっさり決着がついた。
 多田さん一人がグー、他は全員チョキだった。
「よっしゃー!」
多田さんはグーのまま拳を突き上げた。
 ヒロトとリクは歓声を上げ、手を叩いた。
 ガロ、龍一、虎次郎はうなだれて、ため息をついた。

 鑑定さんを麻衣から離すにはどうすればいいか、色々案を練っていた。
 激辛なものを食べさせ、いっぱい水分を取らせてトイレに行かすとか、冷たいものを食べさせて腹を壊させてトイレに行かせるなど、様々な案が出たがどれも現実的ではなく、うまく行きそうになかった。
 料理を取りに行く機会が多い方がいい。
 
 11月からスケジュールが1時間早くなっていた。デートの途中に日が暮れることを運営が嫌がってのことだ。
 それで、11月から2月までは、ライブの開始は午後1時で、試着会の開始も4時過ぎからである。
 この時間なら、ホテルのスウィーツバイキングにぎりぎり間に合う。高級ホテルなら、レストランが広いので、スウィーツや飲み物を取ってくるのに時間がかかる。
 幸い次回のライブ会場は新宿の会館であった。
 高級ホテルが近くに幾つもある。値段が高いのがネックだったが、それはいつもの6人に加えて、上野さんもカンパしてくれて、7人で割り勘にすることにした。
 具体的には、もし誰かがデートの権利を得た場合、他の二人は握手の時にそれとなく話があることを麻衣に伝えておく。
 そして、彼女の協力も得て、鑑定さんがスウィーツや飲み物を取りに行っている間に彼女に話をする、という作戦に決まった。

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