第3話 ヒロト2

文字数 1,235文字

 ヒロトはアパートに戻ると、バッグからリーフレットを取り出して眺めた。
表には7人の制服姿の女の子が並んで立っている大きな写真があり、その下にはライブでポーズを取っている写真と歌っている写真が載っていた。
 裏を見ると、メンバーの顔写真とその下に名前が書いてある。
 みんな苗字はなく、代わりに宝石の名前がついていた。それで東京10カラットなのかと気がついた。
 彼女はサファイア麻衣という名前だった。
 1番下は無料招待券になっていた。これを切り取って持って行ったら、ただでコンサートを見られるのだろう。
 今週の日曜日にライブがあると書いている。特に用事はない。というか、いつも授業が終われば暇であった。
    
 ヒロトは中学まで優秀で、地元で1番の進学校に進んだ。しかし、高1の途中から勉強についてゆけなくなった。その頃に母親が癌になり、半年の闘病生活の後、亡くなった。
 父も周りの大人達もヒロトの成績が下がるのは仕方ないと思った。
 しかし、自分ではわかっていた。母の死は関係ない。自分には優れた能力もなければ、一生懸命勉強する真面目さも根気も忍耐力もない。 
 中学は多少の能力と塾での勉強で付いていけたが、高校に入り、学習内容が格段に難しくなると、付いていけなくなった。が、ほとんどの生徒が一流と呼ばれる大学に進学する高校であったので、三流大学に行くと馬鹿にされる雰囲気があった。
 ヒロトにも妙なプライドだけはあった。そして、自分の力に見合っていない大学を受け、不合格続きで、三浪した。そして、やっと東京の早慶につぐランクの私立大学に受かり、妥協して進学することにした。
 しかし、大学に入ると、付属高校から来た生徒や関東出身の現役合格生が思いのほか多く、関西の地方都市出身で三浪もしたヒロトとは話も合わなかったし、何か見えない壁のようなものがあった。誰とも親しくなれなかった。
 高校の時の友人ともこの三年の間に疎遠になっていた。
 誰一人友達と呼べる人はいなく、大学とアパートを往復するだけの味気ない毎日であった。
   
 ヒロトはグループの情報を得るためにホームページにアクセスしてみた。
 女の子達の上半身の写真があり、その下には出身地と生年月日、趣味、好きなもの、特技などが書いてあった。麻衣は東京都出身で生年月日は1991年4月23日となっていた。
「27歳かあ」
 ヒロトは少しショックを受け、落胆した。自分より年上なのは想像していたのだが、4歳も年上だとは思わなかった。
 ライブの動画も載っていて、それを見ると、メンバーの女の子達は自分の名前の宝石の色のミニスカートのドレスを着て歌い踊っていた。サファイアなので、彼女のカラーは青なのだろう。鮮やかな青色の衣装を着ている彼女の姿は美しく、時には愛らしい表情を見せ、輝いていた。
 これまでライブになど行ったことがなかったので、少し怖いような気持ちがした。が、実際の彼女の姿を間近で見たいと思う気持ちの方が上回った。
 
 
 
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