第34話 謙介17

文字数 1,563文字

 謙介は真維のブログとツイッターを毎日読んだ。
 真維と出会ってから楽しみが増えたが、彼女のブログやツイッターを知り、彼女に芸名を知ったと告げたことで、これまでよりも数倍楽しみが増した。

 まず、毎日彼女が何をしているのか知ることが出来た。さらに、ブログの記事や写真からメールのネタが増えた。
 ブログの写真を見て「今日の服、とっても素敵です」と送ると、
「あれ、OL時代に買ったお気に入りなのです。久しぶりに着たけど、歳を取ったので似合ってないことないですか?」と返信があり、
「いやいや、めっちゃいいです」と再返信した。
 そういう話題の時の返信は早かったが、謙介の日記のような内容になると返信は遅く、翌日になることも度々だった。が、ある時、その理由が分かったような気がした。

 ツイッターで質問タイムというのをしていて、10分間だけ質問を受け付けるというものだった。
 しかし、その10分間で30くらいのツイートが送られてきた。が、質問はほとんどなく、「今日の晩御飯はカレーでした。麻衣さんはカレーは好きですか?」というものならまだましな方だ。
「今日は夜勤です。つらいです」と自分の近況報告や「どこどこの店の何々はめっちゃ美味しいです」という単なる個人的な感想などが多かった。
 その一つ一つに彼女は「大変ですね。頑張ってください」とか「そちらの方に行く機会があれば一度食べてみますね」とか返していた。
 
 中には構ってちゃんなのか「ライブに行きたいのだけど、みんながいじめるからいけない」というものがあった。
 それに対しては「気のせいです。そんなことありません。会えるの楽しみにしてますから、今度来てくださいね」と丁寧に返していた。
 
 あと、卑猥なツイートをしてくる奴もいた。「Bチクは触られるのと舐められるのとどっちが好きですか?」
 それ対しても無視したり、ブロックしたりすることなく、
「爆竹は舐めても害がないのですか?」
「アイスキャンディーが好きなのかな?僕のアイスキャンディーも舐めてほしい」
「アイスキャンディーを買ってライブに来てください。喜んでいただきます」と上手くかわしていた。

 彼女は頭が良いなと思った。そして、これは大変な労力だと唸るような思いになった。
 SNS上なので、実際にライブに来るファンだけではないだろう。むしろその方がずいぶん少ないように思われる。
 それでも嫌がることなく全員に返信している。大変な作業だ。
 その上、真維はアルバイトをしている。アイドルでの収入は少なく、アルバイトをしなければ到底生計を立てられないとのことだった。
 平日は9時から19時までチェーンの弁当屋でバイトしていた。
 テンカラは毎週土曜はリハーサルと歌や踊りのレッスンがあり、日曜にはライブがある。
 それ以外にも平日でもアイドルグループのイベントがあったり、ゲリラライブがあったり、ラジオやネットテレビの出演もあったりで、そういうのは大抵夜にある。
 彼女の勤めている弁当屋はオフィス街にあるので、朝から昼時までが忙しい。その後は暇なので、テンカラの用事がある時は午後2時で帰してくれるそうだ。
 何もない時は午後7時まで働いた後、ブログを書いたり、質問タイムに答えたりしている。  

 他のメンバーを同じことをしていたが、ブログの更新頻度やツイッターの内容は運営も個人に任させているのだろう。
 ブログも質問タイムの回数も真維が断トツに多かった。
 そんな真面目なところに感心したし、アイドルにかける彼女の根性には頭が下がる思いになった。
 
 謙介は特に用事もないのにメールをすることを控えようと思った。
 自分の日記のような報告に返信させるのは申し訳ない。また、自分がそんなファンとも言えない連中と同列に見られることも嫌だった。
 
 
 
 
 
 

 
 


 
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