第4話 謙介2

文字数 1,155文字

 謙介は五年前に妻を亡くした。彼には娘と息子がいた。姉の方は妻が亡くなった時には東京の大学を出て、北海道でインテリア関係の会社に就職していたが、歳の離れた弟の大翔はまだ高校生であった。
 それから、親子二人で暮らしていたのだが、去年、大翔が東京の私立大学に入ると、彼は自分のことを考えるようになった。
 関西の地方都市だが、そこでは十指に入る企業に勤めていて、課長にまでなった。
 謙介の会社はずっと今の課長職にいるなら60歳で退職しなければいけない。しかし、関連会社に56歳から平社員で出向するなら65歳まで勤めることが出来る。そのどちらを選択するかは55歳までに決めなければならない。
 それが2年前のことである。
 妻がいれば、二人で遊んだり、美味しいものを食べに行ったり、旅行したりして、老後を楽しもうと考えたかもしれない。が、一人なので仕事がなければ、何もすることがない。
 仕事人間で、これまでずっと仕事ばかりしていたので、特に趣味も遊びたいこともしたいこともなく、仕事がなければ暇で仕方ない。
 もう一度平社員になるのには抵抗もあったし、役職のまま60歳で定年する人が実際多かったが、謙介は出向し、65歳まで働くことを選んだ。
 妻の保険金もあり、息子が大学を卒業するまでの費用くらいの貯蓄はある。
だから、定年までの10年間という時間と稼いだ金は、自分の第二の人生のために我儘に使おうと思った。当然それくらいの権利はあるはずだ。
 謙介は孤独でつまらない毎日を過ごしていた。誰か素敵な女性と出会いたいと思った。そうすれば、生活ももっと豊かなものになるだろう。
 風俗にも通ったが、プロとの交わりは、虚しくなるだけであった。
 だからと言って、再婚するつもりはなかった。もう伴侶に先立たれる、あんな辛い目に遭うのはごめんだった。 
 そんな時、パパ活という言葉があるのを知っり、愛人を持ちたいと思った。
 しかし、今はやりのマッチングアプリは騙されたとか危ない目にあったというニュースをテレビで見たり、ネットニュースで読んだりしたことがある。
 幸い、金はある。それで、費用はかかるが、交際クラブの方が安心だと思い、ネットで信用のおけそうなところを探した。
 大手の交際クラブはほとんどが東京にあり、その中でもクリエイトクラブというところが良さそうに思えた。
 しかし、問い合わせてみると、クラブの人と直接会って、審査に通らなければ、入会は出来ないと言われたので、諦めていた。
 それが以前の会社で部下だった女性から、東京の男性と結婚することになり、6月に東京で式を挙げるので、出席してほしいとの連絡があった。
 有給を取って、三日ほど東京に行き、結婚式に出て、息子の様子も見て、この機会にクラブに申し込むことにしたのであった。
 
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