第17話 ヒロト9
文字数 1,364文字
会場に着くと、すでに数人のファンが来ていた。
タクもいて、声をかけて来た。
「こんにちは。来ると思ったよ。今日はオークションに申し込むのでしょ?」
「うん、そのつもりです。北条君も申し込むのですか?」
「タクと呼んでよ。僕もヒロ君と呼ぶから」
「ああ、じゃあ、タク、君も参加するの?」
「うん。入札するよ。もし、僕がルビたんを落札出来たら、4人でWデートというのもありかな?そうなったら、後で相談させてよ」
ヒロトはタクはほんとに親切な奴だなと思った。一緒にデートしたら、色々教えてくれるので、ありがたい。
しかし、その一方、麻衣と2人でいたいし、今日のプランも考えて来たのにそれが出来なくなるので、ありがた迷惑に思う気持ちもあった。
オークションの時間になった。
オークションと言っても名ばかりで、お金を入札するわけではない。ジャンケンするだけである。
「では、ただ今より本日のオークションを開催します。バイヤーの皆さんは推しメンバーの名前の札のところにお集まりください」
年嵩の鑑定さんが声を上げた。
初めての人が落札するというのはバイヤー間での暗黙の約束ごとで、運営が認めている訳ではないのでジャンケンはしなければならないが、誰かがヒントを言うので、それに従ったらいい、とタクが教えてくれていた。
ヒロトはサファイア麻衣と書いたプラカードを掲げている鑑定さんのところに行った。
他に5人の男が集まってきた。
「今日はグーを出したい気分だな」と1人の男が言った。他の男達がうなづいた。
これは自分にパーを出せという合図なのだと察しがついた。
「じゃあ、皆さん、用意はいいですか?」
鑑定さんが呼びかけた。
「では、いきますよ。最初はグー、ジャンケンポン」
ヒロトはパーを出した。他の男はグー、グー、グー、グー、……で、驚いたことに1人はパーだった。
ヒロトは思わず顔を上げて、その男を見た。
黒のスウェットを着た、目つきの悪い男だった。
「ガロさん、何してるの?」
1人の男が言った。
「えっ、グーを出さなければならないのだっけ?」
その男が答える。
「とぼけないでよ」と、他の男が言った。
「ごめん。俺、仕事でこれから1ヶ月来れないんだよね。だから、今日はどうしても落札したかったんだよね。その気持ちが強かったから、つい間違えたのかも知れない。でも、鑑定さん、何を出さなければならないとか、そんな決まりはありましたかね?」
側にいたスタッフの方を向いた。
スタッフは無表情で、「ありません」と首を横に振った。
「彼に悪いでしょ」
別の男が言った。
「ああ、悪い、悪い。では、2人でジャンケンしょう。グーを出したらよかったのでしたっけ?」
ガロという男は嫌味な口調で、ヒロトに言った。
ヒロトは頭に血が上るのを感じた。馬鹿にされているような気がした。また、頼んでもいないのに、いつのまにか不正なことをしている立場になっていて、それに対する憤りもあった。
「いや、そちらの事情も理解出来るので、八百長ではなく、真剣勝負でいいです」
ヒロトがそう言った時、周りの男達は一斉に溜息をついた。
「では、いきますよ。最初はグー」
何事もなかったかのように、鑑定さんが声を上げた。
「ジャンケンポン」
ヒロトはパーを出し、ガロという男はチョキを出していた。
タクもいて、声をかけて来た。
「こんにちは。来ると思ったよ。今日はオークションに申し込むのでしょ?」
「うん、そのつもりです。北条君も申し込むのですか?」
「タクと呼んでよ。僕もヒロ君と呼ぶから」
「ああ、じゃあ、タク、君も参加するの?」
「うん。入札するよ。もし、僕がルビたんを落札出来たら、4人でWデートというのもありかな?そうなったら、後で相談させてよ」
ヒロトはタクはほんとに親切な奴だなと思った。一緒にデートしたら、色々教えてくれるので、ありがたい。
しかし、その一方、麻衣と2人でいたいし、今日のプランも考えて来たのにそれが出来なくなるので、ありがた迷惑に思う気持ちもあった。
オークションの時間になった。
オークションと言っても名ばかりで、お金を入札するわけではない。ジャンケンするだけである。
「では、ただ今より本日のオークションを開催します。バイヤーの皆さんは推しメンバーの名前の札のところにお集まりください」
年嵩の鑑定さんが声を上げた。
初めての人が落札するというのはバイヤー間での暗黙の約束ごとで、運営が認めている訳ではないのでジャンケンはしなければならないが、誰かがヒントを言うので、それに従ったらいい、とタクが教えてくれていた。
ヒロトはサファイア麻衣と書いたプラカードを掲げている鑑定さんのところに行った。
他に5人の男が集まってきた。
「今日はグーを出したい気分だな」と1人の男が言った。他の男達がうなづいた。
これは自分にパーを出せという合図なのだと察しがついた。
「じゃあ、皆さん、用意はいいですか?」
鑑定さんが呼びかけた。
「では、いきますよ。最初はグー、ジャンケンポン」
ヒロトはパーを出した。他の男はグー、グー、グー、グー、……で、驚いたことに1人はパーだった。
ヒロトは思わず顔を上げて、その男を見た。
黒のスウェットを着た、目つきの悪い男だった。
「ガロさん、何してるの?」
1人の男が言った。
「えっ、グーを出さなければならないのだっけ?」
その男が答える。
「とぼけないでよ」と、他の男が言った。
「ごめん。俺、仕事でこれから1ヶ月来れないんだよね。だから、今日はどうしても落札したかったんだよね。その気持ちが強かったから、つい間違えたのかも知れない。でも、鑑定さん、何を出さなければならないとか、そんな決まりはありましたかね?」
側にいたスタッフの方を向いた。
スタッフは無表情で、「ありません」と首を横に振った。
「彼に悪いでしょ」
別の男が言った。
「ああ、悪い、悪い。では、2人でジャンケンしょう。グーを出したらよかったのでしたっけ?」
ガロという男は嫌味な口調で、ヒロトに言った。
ヒロトは頭に血が上るのを感じた。馬鹿にされているような気がした。また、頼んでもいないのに、いつのまにか不正なことをしている立場になっていて、それに対する憤りもあった。
「いや、そちらの事情も理解出来るので、八百長ではなく、真剣勝負でいいです」
ヒロトがそう言った時、周りの男達は一斉に溜息をついた。
「では、いきますよ。最初はグー」
何事もなかったかのように、鑑定さんが声を上げた。
「ジャンケンポン」
ヒロトはパーを出し、ガロという男はチョキを出していた。