第43話 懐かしの建物を探偵しましたのぢゃ!【4】

文字数 777文字

【4】

 その頃は、もはやバブル期も終わった時分でしたがの、バブル期には東京中、再開再開発で、地価も高騰、地上げ屋さんの暗躍で、都内の民家なんてみんな追い出されて、跡地には高層ビルやマンションが建っておった時分でしたのでな、そんなバブル期の後に、赤坂の一等地に、地上げもされずに、そんな古民家が残っているなんて当時としては、とても信じられないことに思えましたのぢゃ。

 なので、当時は当然ながら、その古民家は空き家で、近々地上げされて取り壊されるのぢゃろうと儂は思うちょりました。

 ところが、夜、ホテルへ向かう道すがら、その古民家の前を通ると家のなかに明かりが灯っておりましてな、また、あれはたしか夏の夕方でしたがの、家の軒先に鳥籠が吊ってあって、その脇で、小さな庭の植木にジョウロで水遣りしておるお爺さんの姿を目撃したことがあったのぢゃよ。

 そして、そのお爺さんの姿が、白いランニングシャツにステテコ姿だったような気がしておるのぢゃが、おそらくそれは儂の脳内変換による錯覚だったのかもしれん。

 しかし、東京のド真ん中の、赤坂のTBS本社の真下の商店街に、そんな古民家が一軒だけポツンと残っておって、しかも空き家ぢゃなくて人が住んでおって、お爺さんがステテコ姿で庭に水遣りしてるなんて、まるで童話みたいな、まるで夢みたいな光景ではありませぬか。

 儂しゃ、もうそんな光景を目にしましてから、なんだかワクワクして、嬉しくなってしまいましてのう、「こりゃ、東京の奇跡ぢゃ!」「こりゃ赤坂の七不思議ぢゃ!」と思うたものでしたわい。

 あの頃……、その家の玄関先を通るたんびに、

「ごめんください、通りすがりの者ですが、怪しい者ではありませんので、少しだけ、お家のなかを拝見させて頂けませんでしょうか?」

 と、玄関の引き戸をガラガラと開けたい誘惑に何度駆られたことか……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み