第5話 仮面ライダーを探偵しましたのぢゃ!【5】

文字数 1,069文字

【5】

 ちと話は変わりまして、プロレスの話で恐縮なのですがな、あの激しいプロレス技の応酬をですな、もしもお互いに本気で掛け合ってたおりましたならば、「試合毎に重傷者や死人が続出!」なんぞと大変な事態になってしまうこと必至でしょうなあ。

 まあ、プロレスも殺陣(たて)の一種でしてな、観客は、あの本気すれすれの高度な殺陣を、殺陣と分かった上で鑑賞しとる訳ですな。
 訓練されプロレスラーが演じる殺陣だからこそ、迫力や興奮を感じつつも、逆に「死ぬまではやらんよな」と安心して観ていられる訳でございます。
(それでも、レスラー死んじゃうことも、ままあったりするからのう)

 ことほど左様に殺陣とは、アクションドラマの演者を怪我から守るシステムでもありましてな、段取りを踏んだ殺陣で事前に練習しておきませんと、激しいアクションシーンでは演者が怪我をしてしまう危険性が大きいのですな。
 しかし、演出側も演者側も、次第に殺陣に慣れて殺陣に満足しなくなって「よりリアルに!」「より迫力を!」と云っては殺陣を軽視して、事故を起こしてしまうケースが多いようですな。

 有名な話が、勝太郎の息子の鴈龍(がんりゅう)が映画撮影中に起こした「真剣殺人事件」ですな。
 これは父親の勝新太郎監督作品の『座頭市』の撮影中に発生しました事故でしてな、殺陣のリハーサル中に、 鴈龍の持っていたが刀が相手役の首に刺さってしまい、相手役が死亡してしまうと云う過失致死事件でしたのぢゃ。

 その鴈龍が持っていた刀が、撮影用の模造刀ではなくて真剣であったこと、その真剣を誤って鴈龍に手渡したのが新人の助監督であったこと、そして、なぜそもそも真剣が撮影現場に置かれてあったのか?といろいろと不可解な点が多い事件でしたわい。 
 表向きには演者の鴈龍が直接の加害者となってしまった訳ですがの、現場に真剣を持ち込んだ人物を推測するならば、それは誰の目にも明らかなのではないですかのう。
 なにしろ、監督がとにかくリアリティを追求してやまない、あの勝新ですからのう。

 勝新はかつて、黒澤明監督に請われて『影武者』の主役に抜擢されたことがあったのですわい。
 その撮影も順調に進んでいた最中、「自分なりに自分の演技を確認したい」とリアリティーを追求した結果、撮影現場に自前のカメラを持ち込んで撮影を始めちゃったもんですから、「現場に二人も監督は必要ない!」と黒澤監督に激怒され、主役を降ろされてしまった経緯があるのですわい。
(後任は皆の衆もご存じの通り、仲代達也。しかし、武田信玄なら勝新の方がハマリ役だったように思えますのう。)
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