第32話 探偵小説を探偵しましたのぢゃ!【16】

文字数 1,233文字

 この閑話も5月に書いたものですのぢゃ。

【16】

 皆の衆、NHKドラマ版『犬神家の一族』観ましたかの?
 楽しみに待っておった儂しゃ、もちろん見ました。
 観るには観ましたがの、感想は、ちと「はぁ~」つー感じでしたかのう。

 まず第一に、全体的に絵面(えづら)が地味でしたな。
 物語の舞台となる長野県の諏訪市の雄大な自然の描写も今一つだったし、犬神家の屋敷も期待に反してしょぼい感じでしたわい。

 やっぱ画像的には、1976年版『犬神家の一族』がスタンダードになっちゃってて、その後の作品はどうしても初代と比べられてしまうんぢゃろな。
 だって、同じ市川崑監督がリメイクした2006年版ですら、初代のあのおどろおどろしさが不足していて「遜色無い」とは言い難い感じでしたな。

 初代『犬神家の一族』の話ですがな、現場に入って犬神家の大座敷のセットを初見した市川監督の第一声が、

「おい、屏風が金色に光ってないな」

 でしてな、早速に屏風を作り直させたと云う、昭和の大巨匠らしい逸話があったそうですがな、実際の映像が、全体に暗め勝ちの画面の、二十畳もあろうかと云う大座敷の背後で黒光りしている金屏風の存在感は圧倒的でしたし、これから始まる物語の不気味さを予感させておりましたのう。

 仮にも財閥と名乗る一族のお屋敷の座敷ならば、このくらい壮大であって欲しいものぢゃが、NHKドラマ版の方は、単なる古いお屋敷の広めのお座敷で、壮大さもおどろおどろしさも、あまり感じられませんでしたのう……。

 第二に、キャステングがハマっていなかった感じがしましたのう。
 こりゃあくまでも、俳優さんの演技の問題ではなくて、物語の役柄と演者のキャステングがマッチしてなかったのでは?つー感想でございます。

 例えば、珠世は、もう少し一般受けする美女の方が良かった気がしますし、松子婦人はもう少し妖艶な御婦人がよろしかと思われましたし、古館弁護士は、初代映画では往年の名脇役 小沢栄太郎でしたがの、この小沢栄太郎と云う役者が画面にいるだけで、物語がぐっとリアリティを帯びてくるのですわい。
 で、NHKドラマ版の古館弁護士役の皆川さんも、がんばってはおりましたがの、物語をぐっと引き締めるには、ちと役不足でしたのう。

 そもそも、平成&令和のドラマや映画には、「もっともらしい偉そうな脇役」が不在なんぢゃよ。
 この人物さえ出しとけば、どんな荒唐無稽な映画もホントらしくなっちまう、と云うほどの「もっともらしさ」と「品格」のオーラを放つ名脇役のことぢゃ。

 そのもっとも良い例が、初代『ゴジラ』で山根博士を演じた志村(たかし)ぢゃな。
 数々の名作や黒澤作品に出演した東宝が誇る名脇役の志村喬が、当時「ゲテモノ」と称された『ゴジラ』に出演したことで、「ゲテモノ映画」の格も、物語のリアリティもぐっと上がったのですわい。

 いやいや、ここまで書いて、先がまたまだ長くなりそうな気配となりましたので、続きはまた次回にまわすことにいたしましょうかの。
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