357 ウテナの噂①
文字数 1,192文字
マナトの隣を歩いているニナが、驚いた様子で言った。
「いやいやいや違うから!そんなんじゃないから!」
「えっ?違うの?」
「おっ、たしか君は……」
「!?」
今度は恰幅のよい、エプロンをつけた壮年の男が話しかけてきた。
「今日は、あのキャラバンのお嬢さんと一緒じゃないんだね」
……誰のこと言ってるの!?!?
「今日も、前と同じ場所に、ナンのお店出してるから、よかったら寄ってってよ。それじゃ」
「……」
呆然と、マナトはエプロン姿の男を見送った。
……いやホント、なんで、この国の人たち、ちょこちょこ僕のことを知ってるんだ!?怖いんだけど!!
はじめて足を踏み入れた土地で、なぜか既知の存在となってしまっていることに、マナトは謎の恐怖を覚えた。
「あら、前に来てたお客さんじゃない!」
「えぇ、また……!?」
今度は若い女に声をかけられた。
「ウテナさんには、あの後、会えた?」
――ピクッ。
マナトの少し前方を歩いていた、ラクトの足が止まった。
「……?」
ラクトのすぐ隣を歩いていた、サーシャの足も止まった。
「えっと、いま、ウテナさんって、言いました?」
マナトが問いかけると、当たり前よと言わんばかりに、女はうなずいた。
「だって、あの後、ウテナさんに会いにいったんじゃ……」
「おい、酒屋の看板娘……!」
女に、男が近寄ってきた。
「いまは、その名前はあまり口に出さないほうがいいぞ……!」
男が、女に語りかける。
「彼女が、実はジンだったって噂が……」
「そんな訳ないでしょ!デマよ!デマ!私、信じてないから!」
「えっ?……ウテナさんが、ジン……?」
足を止めて、話を聞いていたマナトとラクトは、顔を見合わせた。
「ごめんなさい。今の話って、いったい、どういうコト……?」
マナトが若干、口論気味になっている2人に尋ねた。
※ ※ ※
巨木の点在するエリアの中に、ムハド商隊は入っていた。
このエリア内に、ラクダ舎はある。
「それにしても、街中を抜けた先が、こんなところだったなんて……」
マナトはラクダ舎から、周りにそびえ立つ巨木を見回した。
幹が太い。まさに巨木。
どれも、樹齢が長いことは、間違いなかった。
地面は石で舗装されているものの、そこから突き出るように遥か頭上へと、その幹は伸びて、無数の緑の葉っぱを風に揺らしている。
……この国の人たちも、こんな立派な巨木を伐採する気には、なれなかったんだろうなぁ。
そんなふうに思いながら、マナトは大きく息を吸った。
「ん~、森林浴~」
「ん~」
隣で、ニナがマナトの真似をしている。
「おい、マナト」
ラクトが話しかけてきた。すぐ隣に、サーシャと召し使いもいる。
「ん~?」
「さっきの大通りでの、ウテナの噂話、どう思う?」