うらめし屋へいこう -4-

文字数 1,335文字

「我々のお仕事ですが、勤務先は現世。現世の各地に赴いて、生きた人間を驚かすこと。これが我々の役割です。派遣先は、レジャー施設のお化け屋敷から、廃墟のような心霊スポットまで、実に様々です」

「質問」

「はい、どうぞ」

「大前提として、俺らは誰かの役に立たないといけないわけだよな? 現世の人間を驚かすことで、誰の役に立つわけ?」

「いい質問ですね。仰る通り、我々は人の役に立たないといけない。ただ、それは必ずしも『霊』でなくて良いのです。つまり、現世の人間の役に立つことも、立派な仕事になるわけです」

「なるほど。だけど、現世の人間の役に立つのか? お化け屋敷なんて、生きた人間がお化け役やってるだろうし、俺たちの出る幕ないんじゃないか? それに、心霊スポットで脅かして、慌てて逃げて怪我でもされたら、役に立つどころか逆効果なんじゃないの?」

「いい考察です。順に回答しますね。お化け屋敷ですが、まず驚かすのはレジャー客ではありません。お化け屋敷のスタッフの方です」

 スタッフ? なぜに。

「スタッフが本物の幽霊を見たと騒げば、『本物の幽霊が出るお化け屋敷』として話題になり、来客が増える。そうしたら、そのお店の利益が上がって人の役に立つ、ということです。もちろん、話題になった後も、定期的に赴いて、今度は来客の方を驚かさないといけませんけど」

「一歩間違えたら、その店にヤラセ疑惑が浮上して、客足が遠のくかもしれないやり方だな……」

「ええ。ですので、我々も店の不利益にならないよう、タイミングを計って姿を見せるのです。ある程度話題になれば、確かめに来る方が現れます。テレビ番組の取材とか、個人で動画投稿をしている方とかね。そういった方々の映像に霊の姿があれば、たちまち本物だと騒がれるでしょう」

「へえ。意外と考えられてんだな」

「そういった日に出勤する霊は、気合いをいれて一張羅で向かっているんですよ」

 商談に行くんじゃないんだから。俺がテレビで見てきた心霊番組の霊が、実は身だしなみをバッチリ決めて登場してたとは。知りたくなかった裏話だ。

「次に心霊スポットの方ですが、怪我をしてでも逃げてもらった方がいいのです」

「へ? なんで?」

「現世の人間が『心霊スポット』と呼ぶ場所の多くは、実は霊などいないのです。過去に自殺や事故死があったから、という理由で勝手に心霊スポットにした場合もあれば、ただの見間違いなのに『霊を見た』と思い込んでしまって、噂が広まった、という場合もあります。しかし、まれに本当に霊がいる場所を見つけてしまうことがあります。そこに住まうのが危険な悪霊なら、最悪の場合、命に危険が及びます。ですから、悪霊に出会ってしまう前に、我々が追い払ってその場から遠ざけるのです」

 そういうことか。そういえば、前に見た心霊番組で、遊び半分で肝試しするなって言ってる霊能者がいたな。霊からしたら、自分の住まいに土足で入ってきて、好き勝手されてるようなもんだもんな。そんなことされたら、生きてる人間だって頭に来る。呪われようが祟られようが自業自得だけど、流石に殺すのはやりすぎだもんな。

「疑問は解決しましたか?」

「うん、納得した」

「それは良かった。疑問があれば、いつでも訊いてくださいね」
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