インターン実習 ー6-

文字数 1,241文字


「よーし! 大成功!」

 元の姿に戻った橋本がガッツポーズした。見事な仕事ぶりを見せつけられた俺は、彼女のいる石碑へと歩み寄る。

「橋本さん、お疲れさまでした。凄かったですね。奴ら、慌てて逃げていきましたよ」

「うん! コケながら逃げてましたよね。これに懲りて、もう肝試しなんてやめてくれると嬉しいなあ」

「いつの間にか現世の人間に見えるようになってるし、突然顔が変わるし、もうびっくりですよ」

「磐田さんがお堂に向かったあたりから、見えるようにって『念』を込めたからねえ。石碑にお祈りしているふりして、ここで待ち伏せしてたんですよー。お寺のお堂じゃなくて、石碑がこの心霊スポットのポイントですから」

 肝試しするならこの石碑で、お堂には行かないってことか。だから俺にそこで待てって言ったんだな。

「途中、彼らと和やかに話しているから、このまま一緒に行っちゃうんじゃないかって心配したんですよ」

「まさかー、作戦ですよっ! 良い雰囲気になって、気が緩んだ時に急に驚かすと、効果テキメンなんです! ふふっ、あの子たち、今夜は眠らせてあげないんだから」

 最後だけ切り取るとピンク色のシーンに思えるが、この人の場合は相手に恐怖を与えて眠れなくするってことだ。ピンクどころかブルーになる。

「あ、そうだ。ねえ、もう出てきていいよー!」

 橋本が石碑に向かって声をかける。誰もいない。そう油断した俺の足元から、突然何かが飛び出してきた。

「うわ!?」

 半透明の女だ。セミロングの茶髪に白のトレーナー、デニムのスカートを履いている。こいつが、足元の地面から飛び出してきたのだ。

「マイちゃんお久ー!」

「あ、そんなとこにいたんだ! 今日は姿が見えないから、てっきりその辺に隠れてるのかと思ったよ」

「うん、地面の下に隠れてた!」

「そんなところに隠れられたら、絶対見つからないし!」

「でしょー? ウチ、子供の頃からかくれんぼ得意だったんだよねー」

 驚きで固まった俺をよそに、ガールズトークが繰り広げられている。たぶん、この霊が被害者なんだろうけど……思ってた感じと違う。悪霊じゃなかったのか? あの三人組が祟られないように、ここから追い払ったんじゃないのか……? いや、実はこう見えて、すごい力をもった悪霊だったりして……?

「紹介するね。この人、磐田さんっていうの。霊界の新入りさん」

「あ、どーも。ウチ、桃香(ももか)っていうの。苗字で呼ばれるの嫌いだから名前で呼んで」

「桃香ちゃん、ここに肝試しに来る男の子を物色しては、タイプの子の前に現れて脅かしてたんですよ」

「別に脅かすつもりは無かったんだけどなあー。タイプだから近づいたのに、みんな逃げてくんだもん。そっちからウチに会いに来たんだろっつーの」

「そりゃ、さっきみたいに地面から出てきたり、突然目の前に姿現したり、上から降ってきたりしたら驚くでしょ」

「マジか。絶対ウケると思ったのに」

 なんだこれは。女子会か。というか、俺よりこいつの方が『うらめし屋』の仕事に向いてんじゃないか?

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