『うらめし屋』オールスターズ集結 -5-

文字数 951文字

「ところで、どこに向かってるんだ? ただ散歩ってわけじゃないだろ?」

「初めてお会いした場所にでも行ってみようかと思いましてね」

「俺が霊界に来た場所に……? なんでまた」

「私との思い出の場所ですから」

「気色悪い表現するな」

「おやおや、つれないですねえ」

 ここのところまともに上司やってたから、多少は俺からの信頼も獲得してきてたってのに、自分でぶち壊すスタイルは相変わらずだ。そういえばこういう奴だった……と定期的に思い出させてくれるおっさんだ。
 こんな会話をしているうちに、俺が初めて霊界に現れた場所へとやってきた。

「この辺りでしたかねえ」

「そうだな。あの時はマジで意味が分からなかった」

「記憶が中途半端だったがゆえに、亡くなったことを認識してらっしゃらなかったですからねえ。混乱されていて大変でした」

「混乱の大部分はあんたが原因だったけどな」

「おやおや、悲しいですねえ。私は磐田さんのために一生懸命でしたのに」

「真面目に不真面目だったよ」

 遠くから、多くの人影がゆらゆらとこちらへ来ている。『審判の門』へ向かう人達だ。俺とは違い、全く記憶を残せなかった奴らだ。

「私が磐田さんを選んだのは、あなたが私の期待に応えてくれると思ったからです」

 さっきまでの冗談半分で話していた時とは違う、トーンを下げ落ち着いた声だった。遠藤は続ける。

「私は、副業で人材紹介をしていると言いましたが、『うらめし屋』へと招き入れるのは誰でもいいわけではありません。私はあなたに、あの場所を選んでほしかった。だから、あえて磐田さんが興味を持たなそうな求人ばかりを抽出してきたのです。申し訳ありませんでした」

 そう言って、頭を下げた。俺は、何も言えなかった。普段なら憎まれ口の一つも言ってやるところだが、そんないい加減な態度では向き合えない。遠藤はそれだけ真剣だった。

「しかし、私はあなたの意志までは縛れない。磐田さんがここを離れたいと思ったなら、私は引き留めません。ですが、もし……これからもこの場所を選んでいただけるなら、その時は私の意志を継いで、『うらめし屋』を任せたいと思っています。それだけ、伝えたかった」

 意思を持たぬ抜け殻たちが、ゆらゆらと通り過ぎて行った。頭を下げる遠藤と、それを見つめる俺の横を、通り過ぎて行った。
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