ようこそ、霊界へ -1-
文字数 962文字
「はい、あなた今日から幽霊ね」
知らない奴から突然そう言われて、納得できる奴がいったいどれだけいるだろうか。少なくとも、俺は固まった。口を開けて、アホ面していたと思う。
「おやおや。目を開けたまま寝ているのでしょうか」
俺の目の前でニコニコ笑ってるおっさんが頓珍漢なことを言う。
「いや、寝てないですよ。でも、いきなりお前は今日から幽霊だって言われたって、面食らうでしょ。第一、あなた誰ですか」
「おやおや。私のことが気になる? 珍しい方ですねえ。みなさん、『ここはどこですか』という質問が先に口をついて出るのに。一番気になるのが私の名前とは、いやいや」
何なんだこいつは。激しく気持ち悪い。なんで俺がおっさんに興味あるみたいな言い方なんだ。……とは思ったものの、言われてみれば、俺がいるのは家でもなければ会社でもない。帰り道にある居酒屋でも、近所のコンビニでもない。
知らない場所だ。しかも、やけに薄暗い。
「ここは……いったいどこなんですか」
「おやおや。私の名前はいいんですか? あれほど興味深々だったのに」
何なんだこいつは。激しくイライラする。こんなおっさんに訊いた俺が馬鹿だった。
「もういいです。俺は勝手に帰り道を探すんで、あなたもどうぞご勝手に。妄想でもなんでもしていてください」
不快感を全面に出して返事した俺は、おっさんに背を向けた。しかし、一歩も踏み出せなかった。
何十人……いや、百人は超えてるかもしれない。年齢も性別もバラバラな人間たちが、こっちに向かって、ゆらゆらと向かってきているのだ。しかも、全員うつむいていて、なんとなく影が薄い。正直言って気味が悪い。
「どうしました? 帰り道を探すのではなかったのですか? もっとも、あなたのおっしゃる『帰り道』の行き着く先がどこだとしても、辿り着くのは不可能だと思いますけどねえ」
振り返っておっさんを見ると、さっきまでのニコニコ顔が消え、無表情になっていた。俺がおっさんに向き直ると、おっさんは表情を崩して口を開いた。
「遠藤 」
「え?」
「私の名前です。遠藤。そう呼ばれています。そして、ここは霊界。亡くなった人間たちが集まってくる場所です」
何を馬鹿なことを……と思いはしたが、あの覇気のない大勢の人たちを見てしまった俺は、遠藤の発言を否定する言葉が出てこなかった。
知らない奴から突然そう言われて、納得できる奴がいったいどれだけいるだろうか。少なくとも、俺は固まった。口を開けて、アホ面していたと思う。
「おやおや。目を開けたまま寝ているのでしょうか」
俺の目の前でニコニコ笑ってるおっさんが頓珍漢なことを言う。
「いや、寝てないですよ。でも、いきなりお前は今日から幽霊だって言われたって、面食らうでしょ。第一、あなた誰ですか」
「おやおや。私のことが気になる? 珍しい方ですねえ。みなさん、『ここはどこですか』という質問が先に口をついて出るのに。一番気になるのが私の名前とは、いやいや」
何なんだこいつは。激しく気持ち悪い。なんで俺がおっさんに興味あるみたいな言い方なんだ。……とは思ったものの、言われてみれば、俺がいるのは家でもなければ会社でもない。帰り道にある居酒屋でも、近所のコンビニでもない。
知らない場所だ。しかも、やけに薄暗い。
「ここは……いったいどこなんですか」
「おやおや。私の名前はいいんですか? あれほど興味深々だったのに」
何なんだこいつは。激しくイライラする。こんなおっさんに訊いた俺が馬鹿だった。
「もういいです。俺は勝手に帰り道を探すんで、あなたもどうぞご勝手に。妄想でもなんでもしていてください」
不快感を全面に出して返事した俺は、おっさんに背を向けた。しかし、一歩も踏み出せなかった。
何十人……いや、百人は超えてるかもしれない。年齢も性別もバラバラな人間たちが、こっちに向かって、ゆらゆらと向かってきているのだ。しかも、全員うつむいていて、なんとなく影が薄い。正直言って気味が悪い。
「どうしました? 帰り道を探すのではなかったのですか? もっとも、あなたのおっしゃる『帰り道』の行き着く先がどこだとしても、辿り着くのは不可能だと思いますけどねえ」
振り返っておっさんを見ると、さっきまでのニコニコ顔が消え、無表情になっていた。俺がおっさんに向き直ると、おっさんは表情を崩して口を開いた。
「
「え?」
「私の名前です。遠藤。そう呼ばれています。そして、ここは霊界。亡くなった人間たちが集まってくる場所です」
何を馬鹿なことを……と思いはしたが、あの覇気のない大勢の人たちを見てしまった俺は、遠藤の発言を否定する言葉が出てこなかった。