ようこそ、霊界へ -4-

文字数 1,031文字

 楽しむって……この薄暗い空間で何を楽しめというんだ。選択肢なんて、あってないようなもんじゃないか。遅かれ早かれ『審判の門』に行くってことだろ。だったら、面倒なことしてないで、とっとと向かったらいいじゃないか。あ、でも俺、天国行けんのかな? 地獄だったらやだな……。針山歩かされたりすんだろ……。

「ちなみに、霊界に留まれば、制限はあるものの、現世に降りることも可能ですよ」

 遠藤の言葉に、妄想で針山を散歩していた俺の頭が一気に現実に戻ってきた。いや、霊界に戻ってきた、が正しいのか? いや、そんなことはどうでもいい。

「現世って……俺が生きてた世界ってことだよな? 行けるのか?」

「ええ。仕事をしてもらえればね」

 俺はまた固まった。理解が及ばない世界がここにあるというか。死人に相応しくない言葉が聞こえた気がする。

「え? 仕事……?」

「はい、仕事」

「ちょっと待って。死んでるんだよな、俺」

「はい。ご愁傷様ですが」

「それなのに、働かないといけないの……?」

 死んだら、成仏して、現世の人間をあたたかく見守るもんじゃないのか? あ、もしかして、仕事ってそういうこと?

「残念ながら、想像されているようなお涙頂戴な話ではないですねえ。れっきとした『仕事』です」

 なんでこいつは俺の心を読んでんだよ。てか、違うのかよ!

「嫌でしたら、無理にお引き止めはしませんが。ただ、霊界も遊び人を置いておくほど寛容ではありませんから、強制的に『審判の門』へ向かっていただくことになりますねえ。ご自身がお亡くなりになった理由も、現世で何が起きていたのかも、何も知らず終いでよいと思うのであれば、どうぞご自由に。念のため申し上げておくと、私からあなたの死因や現世の状況を伝えることはできませんので」

 汚ねえ言い方しやがって……! 病気してたわけでも、歳くってたわけでもないのに、死んだ理由も分からないんだから気になるに決まってんだろ……!

「はいはい分かった分かった。働けばいいんだろ? 働けば。全く、死んでまで働かされるなんて、夢にも思わなかったぜ」

「そうですかそうですか。それは結構。ご心配なく、もうお亡くなりになっていますので、これからは夢を見ることもありませんから」

 そういうことじゃねえっての! こいつ、なんか会話のポイントずれてんだよなあ。自分の死んだ理由さえ分かったら、とっととやめて天国でも地獄でも行ってやるさ。遠藤はニコニコして両手を広げた。

「ようこそ、霊界へ。歓迎しますよ」
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