真実 -1-
文字数 1,053文字
健人の旅立ち後、寂しさを紛らわすように、それぞれ仕事へと舞い戻っていった。他に誰もいなくなった事務所で、感傷に浸る余裕もなく、俺は自席で考えを巡らせていた。遠藤の件が気がかりで仕方なかった。
使者の片割れが言っていた通り、本当に遠藤が霊ではないとする。では、一体何者なのだ。まさか、生きた人間というわけでもあるまいし。それを抜いても、ここ最近の遠藤の様子がどことなくおかしい気がしていた。確か……内部監査があったあたりからだ。その後は俺の記憶が戻って、自分自身のことでいっぱいだったから、今の今まで遠藤のことまで気にする余裕がなかった。そう言えば、遠藤は俺のことを羨ましいとまで言っていた。いったい何があったっていうんだ。
どうどう巡りの思考を終わらせたのは、『辻』からの光。遠藤が戻った知らせだ。俺の方が緊張してきた。
「おやおや。磐田さんお一人でどうされました? お留守番ですか?」
「ちげーよ」
当の本人はすっかりいつも通りに戻ってやがる。
「冗談です。健人さんを見送るのに、私が暗い顔していられませんからね。磐田さんは私を待ってらっしゃってんでしょう?」
あえていつもの調子に戻してくれたってことか。さすがは俺たちの上司だ。だけど。
「別に無理しなくていい」
少なくとも今は、仮面を外して、肩の力を抜いて、上司という責任から解放されてほしかった。上司も部下もない、ただの二人の人として、話したかった。
「やはり、あなたは私が見込んだ方だ。周りの空気を読み、適切な行動を取ることができる素晴らしい方です。私の代理をお任せしたいくらいです」
「やめてくれ。一人の人間を追い詰めた俺に、人の上に立つ資格は無い。あんたと違ってそんな器じゃないさ。それより」
「分かっています。『審判の門』の使者が言っていたことが、引っかかっているんですよね」
「……ああ。言いたくなければ、言わなくていい。ただ、突然いなくなったりされたら困るからな」
「別に構いませんよ。それに、先ほどもお伝えしましたが、私はここから……霊界から離れることはできません」
「それ、どういう意味なんだ? あんたは現世に行けないってことか?」
「はい。試したことはありませんが」
「どういうことだ? 試したことが無いのに、なんでそう言える?」
「私が霊ではないからですよ」
ただのよそ者の悪口程度に過ぎなかったものが、ついに本人によって認められてしまった。
「じゃあ……あんたは……?」
ひと呼吸おいて、遠藤は言った。
「ある人物が『念』で作り出した存在。それが私です」
使者の片割れが言っていた通り、本当に遠藤が霊ではないとする。では、一体何者なのだ。まさか、生きた人間というわけでもあるまいし。それを抜いても、ここ最近の遠藤の様子がどことなくおかしい気がしていた。確か……内部監査があったあたりからだ。その後は俺の記憶が戻って、自分自身のことでいっぱいだったから、今の今まで遠藤のことまで気にする余裕がなかった。そう言えば、遠藤は俺のことを羨ましいとまで言っていた。いったい何があったっていうんだ。
どうどう巡りの思考を終わらせたのは、『辻』からの光。遠藤が戻った知らせだ。俺の方が緊張してきた。
「おやおや。磐田さんお一人でどうされました? お留守番ですか?」
「ちげーよ」
当の本人はすっかりいつも通りに戻ってやがる。
「冗談です。健人さんを見送るのに、私が暗い顔していられませんからね。磐田さんは私を待ってらっしゃってんでしょう?」
あえていつもの調子に戻してくれたってことか。さすがは俺たちの上司だ。だけど。
「別に無理しなくていい」
少なくとも今は、仮面を外して、肩の力を抜いて、上司という責任から解放されてほしかった。上司も部下もない、ただの二人の人として、話したかった。
「やはり、あなたは私が見込んだ方だ。周りの空気を読み、適切な行動を取ることができる素晴らしい方です。私の代理をお任せしたいくらいです」
「やめてくれ。一人の人間を追い詰めた俺に、人の上に立つ資格は無い。あんたと違ってそんな器じゃないさ。それより」
「分かっています。『審判の門』の使者が言っていたことが、引っかかっているんですよね」
「……ああ。言いたくなければ、言わなくていい。ただ、突然いなくなったりされたら困るからな」
「別に構いませんよ。それに、先ほどもお伝えしましたが、私はここから……霊界から離れることはできません」
「それ、どういう意味なんだ? あんたは現世に行けないってことか?」
「はい。試したことはありませんが」
「どういうことだ? 試したことが無いのに、なんでそう言える?」
「私が霊ではないからですよ」
ただのよそ者の悪口程度に過ぎなかったものが、ついに本人によって認められてしまった。
「じゃあ……あんたは……?」
ひと呼吸おいて、遠藤は言った。
「ある人物が『念』で作り出した存在。それが私です」