夫が神主であること、物語を核心へと導きます

文字数 1,203文字

第一話 神社たらしめるもの―縁起 
 明治神宮、日枝神社、靖国神社、神田明神、湯島天神と東京の代表的な神社を挙げた。これら神社の運営は当然のことながら順調なことだろう。
 かたや地方の名もない神社の懐はオサムイ。神社の収入の大半はご祈祷(初穂)料。初詣や七五三、結婚式などの祝事、あるいは合格・交通安全・安産・厄除けなどの祈願(お祓い)が挙げられる。
 結婚式は別としておおよそ一件当たりの祈祷料は五千円から一万円が相場。だから集客力がものを云う世界。お賽銭などを当てにしてはならない。名もない神社は年間でせいぜい一万円だ。
 「白鷺神社」の歴史は源頼朝が鎌倉に幕府を開いた直後に始まる。武蔵七党(平安後期~室町時代にかけて武蔵国を中心に下野、上野、相模にまで勢力を伸ばしていた同族的武士団の総称)の一つ「村山党」の構成員・仙波氏によって創建された。

 祭神の「饒速日命(ニギハヤヒノミコト)」はなぞの多い神。日本神話の主宰神あのアマテラスオオ(ミ)カミの別称とする説もあるぐらい。通説では神武天皇以前に大和国を支配していた神々のひとり。水を司る神。龍を従えるとも云われる。
 また物部氏の始祖神とされる。物部氏とは軍事と祭祀をもって大和朝廷を構成した一大雄族。たぶん仙波氏は箔をつける為に出自を脚色したのだろう。ルーツは物部氏であると。当然のこと「ニギハヤヒノミコト」もくっ付いて来たというワケ。
 一千年に亘る歴史を持ち仙波氏の氏神である事実は大きかった。狭山・入間近在では氏子が今でも千人超いる。自分の祖先を辿れば「仙波氏」に引っかかる一族が多いのだ。
 お蔭で毎年奉讃金が手に入る。奉讃金とは氏子総代が氏子から寄付を集め神社に奉納するお金のこと。この地区はお茶処。茶葉で商いする豪農商も多い。金額は二千万円ほどになる。
 また氏子からの要望に応じた祈祷料がこれに加わる。これがすべて神主の収入とはいかない。宮造り(切妻造)の本殿・拝殿・弊殿の保全管理には結構金がかかる。 
 他に境内の整備維持費用。昨年の台風では本殿の屋根に境内からの倒木があって全葺き替えを余儀なくされた。こんな時のために修繕費を充分に積み立てておかなければならない。
 仙波清人と陽菜は小手指駅近くの2LDKマンションで暮らしている。寺院と神社の決定的な違いは墓の有無。墓を持たない神社はその分気楽といえる。墓近くでの墓守の仕事がない。だから日常の住居は境内にある必要もない。
 神社の境内には社務所がある。もちろん正月や七五三などの繁忙期には毎日社務所に居る。けれどそれ以外は氏子からの祈祷依頼に合わせて予定を組む。祈祷がある日はマンションから陽菜お気に入りの黄色いワーゲン・ビートルで社務所に赴き、神主の装束に着替えて祈祷(お祓い)に臨む。お決まりの「おみくじ」は自動販売機がある。

第二話 女子校の黒板には意味の分からない数式だらけ に続きます。
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