ミヒカリヒメに纏わる、さらなる真実を求めて

文字数 1,231文字

第六話 真実を求めて
 「それでも永く埋もれていた真実がひとつ明らかになった」
 二柱が鎮座する祭壇を見上げながら清人。託すべく氏子を探したが最後の数人を残すのみとなっていた。在るべき場所はもはや存在しないと云える。
「そうね。ハクさんのお蔭だわ。氏子に話しを訊かなくちゃ真実は分からなかった。きっとミヒカリヒメは知って貰いたかったのよ」
 陽菜は左手を清人の右手に滑りこませた。発見者の陽菜には責任感が芽生え始めていた。それは信仰いや愛情かもしれない。
「実はまだ何か知らないことがあるような気がする。緑町の東明社さんが代々雲流大社の祭祀を引き受けていたようなんだ。行って話しを聞いて来ようと思う」
 陽菜はミヒカリヒメのご神体を収めた木箱から淡いピンク色の光が漏れ出すのを見た。


 東明社はいわゆる天満宮。ご祭神は天神様・菅原道真。地域でも人気のある神社。境内には合格やら健康、恋愛など人生における祈願を記した多くの絵馬が吊り下げられている。白鷺神社に絵馬はない。
 清人は立派な社務所を訪ねた。木造三階建ての伝統的な日本家屋で神主の住居も兼ねている。玄関脇の応接室に通された。窓越しに大クスが見える。幹には注連縄が巻かれていた。信仰の対象ということだ。
 しばらくすると高齢の男性が杖を突きながら部屋に入って来た。神主の装束ではなく私服。もう引退しているらしい。
「あんたが白鷺さんの跡取りかい? アンタの爺さんとは神主養成所時代の同期でな。よくツルんで夜の歓楽街に遊びに行ったわい。案外早くあの世にイッチまってガッカリした」
 祖父と同期となると九十歳を超えている。清人は三年前に亡くなった親代わりの祖父を久しぶりに想った。口煩かったが孫を立派な神主に仕上た。代替わりに一番難しいとされる氏子たちとの仲立ちも持ち前の豪快さで難なくこなした。清人は祖父の目の前で「若」からいっぱしの宮司に成長した。
「それはお世話になりました。祖父はどんな人間だったんでしょうか? 」
「ヤスは肝の坐った男でなぁ。学校でも納得出来ないと教官の神主の喰ってかかっておったわ。
 知っての通り神主も階級社会。大きな神社の跡取りが学校でもやっぱり大事にされててのう。それがヤスは気に入らなかったんじゃろ。神さんにも序列があるのか? とな、ハハ……」
 老神職は懐かし気に笑った。確かに祖父には一本筋の通った処があった。他人はそれを偏屈というのかも知れない。

「今日お伺いしたのは今は無き雲流大社のことです。いま、ひょんなことでご神体をうちで預かっています。東明社さんは代々大社の祭祀もなさっていたと伺いました」
 老職の顔が一瞬曇った。
「雲流さんか。あれはすまんことをした。親父殿から酒が入ると悲惨な結末をよく愚痴られたもんじゃ。日本神道の神職として何としても阻止しなくちゃいけんかった」
 老職はシブ茶を含むと重い口をひらいた。
「昭和の初めの頃だからワシも実際には知らん。……

第六話 もうひとつ真実 に続きます
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