舞台は女子高校の教室

文字数 1,329文字

第二話 女子校の黒板には意味の分からない数式だらけ
 私立彩華学園高等女学校の理科実験室の黒板は数々の数式で埋め尽くされる。いつもの光景だがこれは授業の一環ではない。なぜならその内容は生徒には一切理解できないから。
 放課後の誰も居ない教室の黒板の前には仙波陽菜が腕組みをして思案に耽っている。指先にはチョークが小刻みに震える。何かのリズムを刻んでいるかのよう。
 脳内に黒板が存在しそこに数式を記して行く。将棋の棋士は対局に当たって脳裏に盤上を思い描き棋譜(差し手)を構築する。それと同じだ。だから実際に黒板に数式を記す時には淀みがない。一気に進む。今回もアッという間に黒板の半分が宇宙(天文)物理学の数式で埋め尽くされて行く。


 陽菜は五年前まで〇大理工学部素粒子研究所で研究員をしていた。身分は博士課程の大学院生であり給与などはないが志望率三十倍の超難関をクリアーしたエリートだった。
 その研究所の人気の秘密は2002年、2015年と立て続けにノーベル賞を獲得した分野・素粒子を扱う専門機関だから。陽菜は素粒子の研究に没頭した。博士課程論文は「光速を凌ぐ物質rayα仮説」。これは日本の科学雑誌で採り上げられ新人科学者賞を獲得した。
 現在の科学の定説では(光より速いモノ)は存在しない。なぜって光より速くに目的地に辿りついても我々はそこで何も見ることが出来きない(相対性理論/特殊相対性理論による)。つまり存在が意味をなさないことになってしまう(多分に哲学的な内容も含まれる)。でも科学はそこで立ち止まることを許さない。
 その大きな理由にブラックホールの存在がある。近年ブラックホール由来のX線が実測されその存在が認知された。
 ブラックホールとはとてつもない質量を持つ天体で強烈な重力で光をも飲み込んでしまう。だから常に漆黒で人間には見えない。存在するのに確認できない。それは「矛盾」。科学は
「矛盾」を何よりも嫌う。科学者はこの「矛盾」を解消することに人生を捧げる。
 光速を凌ぐ物質が存在すれば例えブラックホールの強力な重力に引っ張られたとしても一瞬でもブラックホールを視認することが出来る。光よりも速い物質(素粒子、電磁波?)とは何か。 陽菜はその物質をrayαとした。
 実在が証明されたものでrayαに一番近い物質は「ニュートリノ」である。これは日本の物理学者(ノーベル賞も獲得)が発見した宇宙由来の素粒子の一つである。十年ほど前に速度の実測値が発表され光速より速いことが示された。だが未だに定説には至っていない。これを支持し探究する科学者も現れない。なぜか?
 この世には万物の法則が存在する。「相対性理論」と「不確定性原理」。この中に「光速度一定の法則」が含まれ光速は(絶対)の指数となっている。有名な物質のエネルギーEを求める公式にE=MC²がある。Mは質量でCは光速度。つまり「光速度一定の法則」を覆せばこの世は混沌
(カオス)となる。誰もそんなことは望まない。
 だから陽菜は光速を超える物質を真空容器に入れて実験室に持ち込み、実際に「光」と競争させることを目指す。そのくらいしなければ誰も信用してくれない。

第二話 科学部の不思議な生徒たち に続きます
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