天文学の天才女子高生は数式の矛盾をアッサリと解決する

文字数 1,637文字

第四話 物理学の天才女子高生現る―
 新学期がやって来た。陽菜の受け持つクラブ活動「自然科学部・通称なでしこ」も新人の勧誘が始まった。毎日二三人が見学にやって来る。その中に部長が連れて来た天才少女・津島彩花が居た。
 何が天才なのか?
 彼女、津島彩花は例の黒板の数式の意味を一目見て理解した。さらに驚いたのはその誤りも見抜いた。陽菜が数年かけても見つけられなかったものをだ。彼女はザっと数式を俯瞰し、あっさりと数式の中のC(光速)をζ(不確定値)に置き換えた。それで数式の中の矛盾は解決した。

 陽菜は驚きの声を上げた。
「え? だって君、光速は不変だよ」
 彩花はまっすぐに腰まで伸びた柳髪を翻らせ澄んだ瞳を陽菜に向けた。
「先生は光速以上のものを信じているはず。だから悩んでいた」
 まさにその通り。返す言葉もない。
「うーん、でもさぁ、この見事な数式を学会で発表しても誰も信じやしない」
「なぜですか? 」
 チョークを手にする彩花の腕は雪のように白い。陽菜は思わず日焼けシミが出だした自分の腕を隠した。
「なぜって、人間は見たものしか信じない。光より速いモノを知らないから」
「なるほど。要は実物を見せなきゃ埒が明かないと云うことですね」
 陽菜は頷いた。光速度を測定出来る施設で光とrayαを競争させる。それしかない。
 陽菜は完成した見事な数式をスマホに収めた。もちろん完成者・津島彩花と共に。ピースサインに満面の笑みでも可笑しくないのに彩花はどこか寂し気だった。
 その後天才少女は「なでしこ」に正式に入部し毎日のように部室にやって来た。到底理解できない先生の数式を解いたことで誰もが一目置いた。あのタメ口の部長でさえ腰が引けている。でも彩花は決して偉ぶることなく一年生の役割を黙々とこなした。
 目下の「なでしこ」の目標は毎年夏休みに開催される「全国高校科学アカデミー」での研究発表。パワポで研究成果をまとめていく。自然科学の論文のこと、多様な図表を作成し写真と共に組み込むため、忍耐強くパソコンに対峙する人材が必要だった。彩花は黙々とこの雑役をこなした。やがてゴールデンウィークを過ぎた頃には先輩部員たちの可愛い妹になっていた。
 「なでしこ」の本年の研究発表のテーマは「ブラックホールの実像に迫る」。顧問先生の専門分野ということもあり皆燃えていた。当然彩花が解いた数式も組み込まれる。アカデミーの注目を集めることは充分に予想出来た。

「今年はうちらがアカデミー大賞ね! 」
 部長の口癖になっている。しかし発表論文は当然のことながら彩花の学説が主体となる。彩花説の帰結は「ブラックホールとは六次元から八次元の異次元空間への入り口」というもの。これには部員の誰もが付いていけてない。チンプンカンプン。
 人類は縦横高さの三次元の空間に時間を加えた四次元の空間しか経験していない。
「ねぇ、彩花。五次元は何処にあるの? 」
 ひとりの先輩部員が尋ねた。
「時間軸です。過去と未来。時の旅行がそれに当てはまります」
 彩花は平然としている。部員たちは顔を見合わせた。
「それってタイムマシンのことだよね」
 一年生新人部員が眼を輝かせた。
「はい、タイムマシンに関しては2007年の(超高速ニュートリノ仮説)でその実現性を示唆しています」
「じゃ、六次元~八次元は? 」
「神の領域です。仮説ですけど。この世が物質で出来ていることは知ってますよね? でも宇宙の始まりビッグバンの時には物質と反物質が同時に出来た。物質と反物質は+と-のようにお互いを打ち消し合って無に帰する。ビックバン以前の状態に戻るということです。それでは反物質は何処に行ったんでしょう? 」
 彩花は理路整然と話した。
「そうか、なるほど。反物質の行き先が無い方が矛盾と云う訳か」
「じゃ、ブラックホールを解放してしまったら私たちは消滅するわけ? 」
「それは分かりません。神のみぞ知る」
 彩花は天井を指さして見せた。

第四話 天才女子高生の自宅 に続きます
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