饒速日命の現人は作中に登場しています。推理するのも愉しいです。

文字数 1,410文字

  
「饒速日命」(ニギハヤヒノミコト)
 神武天皇以前に天照大神から十種の神宝を授かり天磐船に乗って河内国(大阪府交野市)の河上の地に天降り、その後大和国(奈良県)に移ったとされる。別名・天火明命(アメノホアカリ)。物部氏、穂積氏、尾張氏、海部氏、熊野国造らの祖神と伝わる。墳墓は、奈良県生駒市白庭台にある白庭山である。その他、数種類の神様の系統であると神の名が連ねられていた。
「神さんのことを調べるとみんなこんなようなものなのよ。どういう顔で体格で性格とか特徴なんかは全然載ってないの。性別さえない。神さんの中で一番速かったなんて記述があれば分かり易いんだけどね。結局は神話だから、シンボライズされちゃってるの」
 陽菜は自分に納得させるように。
「先生、ニギハヤヒノミコトのご神体って何なんですか?」
「主人から銅鏡だと云われた。実際に見たことはないわ。ご神体って大概は秘物なのよ」
「そうか発光物質じゃないのか。でも例えばその銅鏡に光を当てれば光速以上になるとか?」
 彩花は食らいつく。
「でもそれは科学的じゃない。銅鏡は銅を磨いて映すためのもの。反射させたからといって速くなるものじゃないわよ」
「確かに。それじゃ空想アニメの世界になっちゃいますね」
 彩花は落胆した。陽菜はこの時、もうひと柱・ミヒカリヒメのことを考えた。やはり光に関わる名前だしご神体は紫水晶似の鉱物。発光するかも。現に縁起には天から光を放ちながら落ちて来たとある。
 陽菜はランチに誘った。近くにカジュアルなイタリアンがある。そこで発表論文を見せて貰うことになった。境内を振り返って、
「なんかいいなぁ。こんな処(境内)で旦那さんと二人の生活なんて……」
 彩花は女子高生らしいオトメチックなことを言う。
「現実は甘くないよ。食べてかなくてはいけないでしょ。賽銭箱なんて年に一万円も入ってないんだから」
「えぇ、そうなんですか? わたし何もしなくてもお賽銭で食べて行けるんだと思ってました」
 陽菜は可笑しくて口に入れたカルボナーラを吹き出しそうになった。ハクさんに教えてやろう。女子高生の宗教観。
「よく出来てるじゃない。つまらない数式の羅列の下にその意味がルビで説明されている」
「はい部長の発案です」
「そうか。ここまで出来たんなら結論が欲しくなるわよね。光より速い物質。仮説として
(神の光)か。なんかいいかも」
 二人はストローでよく冷えた抹茶味のタピオカを啜った。


第八話「樋速日水光姫命」は一体何を考えてるの? 

 清人は当惑していた。
 樋速日水光姫命のご神体の預け入れを神社本庁に依頼したがより具体的な証拠を求められた。清人は本庁の申し出の通りの証拠を揃える。ただ狭山湖で見つけた祠の写真、最後の氏子・小山さんの請願書で行き詰ってしまった。祠はその場所に蔭も形も無くなっていたし、ふた月前に出会った小山さんは急逝していたのだ。
 陽菜が清掃活動の折に見つけた樋速日水光姫命の祠はスマホにも複数枚収めた筈だったが写真には何も写っていなかった。確認できるのは太い樹の幹と堆く積もった枯葉だけ。
 小山さんの死は清人と陽菜の不安が的中した形となった。予想通り生き証人として生かされていた。さらに小山さんの証言を録音したボイスメモも消えていた。質問する清人の声だけはそのまま残ってはいたが。
 核心をつく証拠の二つが失くなってしまったのだ。

第八話 ご神体を発光させたい に続きます

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