科学部員はメガネ三姉妹だけ。この中に美光姫がいるの?

文字数 1,127文字

第二話 科学部の不思議な部員たち
 理科実験室の片隅に三年生が二人、二年生がひとり。パソコンを前に何やら議論を繰り広げている。どの子もメガネを掛けている。(メガネ三姉妹)と陽菜は呼ぶ。
「先生、またその数式ですか?」
 三人しか居ない「科学部」の部長の声。度の強い赤いメガネをかけた目立たない子だ。
 陽菜はハッと我に返った。窓辺には夕陽が射し込んでいる。
「ああ、そうね。でもこの式にはどこかに矛盾があるのよ。それを毎日探している」
 陽菜は黒板消しで繰り広げられた数式を下から消し始めた。帰り支度だ。 
「先生、よく旦那さん見つかりましたね?」
 生徒のくせに遠慮がない。もっとも陽菜も教師らしいことをしたこともない。今日も部員たちをほったらかしにしていた。
「ハハ、誰にでもひとりぐらいは見つかるものよ。でもわたし最初は結婚する気なんてなかった」
「へぇーそうなんすか。うちの母親はいますぐにでも頼りになる旦那さんを見つけて、一生楽に暮らすことを考えろと言います。まだ高校生だっちゅうの!」
 部長は捨て台詞を吐いた。自分はモテないとの自虐的な思いも込められていそう。
「でもその通りよ。普通の女子ならそう考える。だけどわたしはダメ。典型的な理系女。物理学にのめり込んで結婚なんてどうでもよかった」
 最後の数式を消しながら思わず本音をもらした。
「でも、先生の旦那さんは大きな神社の神主さんで、その奥さんは玉の輿だって、みんな言ってますよ」
 部長も容赦ない。
「そうね。神主の妻だからという制限は何もない。生活に不自由はないわ。こうして先生までさせて貰ってるしね。研究も続けられている」
「でもどうして神主さんと知り合ったんですか?」
 部長は黒板消しを陽菜から受け取りクリーナーに載せた。なせが黒板消しは大きく撥ね跳んだ。部長は素知らぬ顔をしている。
「{千と千尋の神隠し}っていう映画知ってるかな? 小・中学校は一緒だったんだけど、私は理系、彼は神主養成学校へと別れて。久しぶりに幼馴染四人で観たの。その映画に出て来る神様がうちの神社の神さんだっていう噂で」
 陽菜は教壇に散らばっている手荷物をバッグに詰め始めた。
「その映画ならテレビで観ました。確か(龍)が出て来たような」
 部長は部室の窓を閉め鍵をかけ始めた。他の部員二人は別れを告げ部室をあとにする。
「そう、その白龍に惹かれたの。リケジョのくせにスピリチュアルなもの好きでね。わたし、今の旦那に恋心を持ったのか、白龍に惹かれたのか今でもよく分からない。えっと、じゃ忘れ物ないわね。出よっか」
「え、先生ったらヒドい。今の聞いたら旦那さん怒りますよきっと」
 陽菜はやや重い引き戸を閉めた。

第三話 枯葉の小山に朽ちた祠を見つける 
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