第15話 明星
文字数 1,803文字
「ついてきたものは皆、都に帰した。今は、自由気ままなひとり旅じゃ」
九品親王がにやけた。
「お倒れになったというお方は、どちらにおられますか? 」
坊主頭の見知らぬ男が、2人の間に割り込むと訊ねた。
「こっちじゃ。ついて参るが良い」
九品親王が、その坊主頭の男を鳰海姫の元へ案内した。
「貴王女。我らも参りましょう」
私は、めずらしく、ぼ~っとなっていた貴王女に声をかけた。
鳰海姫の居所から、苦しそうなうめき声が聞こえた。
九品親王たちに続いて、部屋の中に入ると、
鳰海姫が、布団の上に海老ぞりになって横たわっていた。
「九品親王。この者は、どこの誰なんですか?
最近まで、この地で暮らしていましたが1度も会ったことはございませぬ」
貴王女が疑う目つきで、その坊主頭の男をみると言った。
「里中医の元を訪ねたら、この者が治療を手伝っておったのじゃ」
九品親王が決まり悪そうに言った。
「我の名は、明星(あけぼし)と申します。お見知りおきを」
その坊主頭の男が、頭を下げると名を名乗った。
「ところで、鳰海姫に、何の薬を飲ませたのじゃ? 」
貴王女が、明星に訊ねた。
「解毒の薬です」
明星が短く答えた。
「解毒とな? 鳰海姫は、毒を盛られたと申すか? 」
九品親王が、明星に詰め寄った。
「これは、魚の毒による症状です。
おそらく、毒がある魚を食したせいでございましょう」
明星が冷静に告げた。
「厨長をここへ呼んで参れ。
鳰海姫のお膳に、毒を盛るなどあるまじきことじゃ」
九品親王が、その場にいた鳰海姫のおつきの人たちを凍りつかせた。
すぐさま、厨長が、九品親王の元に呼ばれた。
厨長が、毒を盛るような人物ではないことは、
私も貴王女も知っていた。貴王女が食べたいものを
苦労してでも手に入れて料理してくれる心根の優しいおじさんだ。
何かの間違いであってほしいと願った。
「厨長よ。おまえが、毒を盛れと命じたのか? 」
九品親王が、厨長を問い詰めた。
「いいえ、違います! どうか、信じてください! 」
厨長が、土下座すると身の潔白を訴えた。
「何かの間違いです!
この者は、善良な料理人であって毒を盛るなどありえません! 」
貴王女が、厨長をかばった。
「では、魚の毒に心当たりは?
料理法に何か、問題があったのではないか? 」
九品親王が、厨長に訊ねた。
「失礼ですが、毒のある部位を誤って使った。
あるいは、よく、火を通さずにお出ししたとは考えられませんか? 」
明星が神妙な面持ちで言った。
「毒のある魚介類を、高貴なお方のご膳に
お出しするはずがございませんでしょう? 」
厨長が、大きく首を横に振りながら必死に否定した。
「お膳に手をつけた後、鳰海姫が倒れたことは明らかじゃ。
何はともあれ、おまえには、厨長としての責任を取ってもらわねばならぬ」
九品親王が低い声で言い放った。
「何とぞ、命を取るのだけはお許しくだせえ」
厨長が命乞いした。
その後、九品親王の命により、厨長は、国府の牢に投獄された。
その日のうちに、厨長は遠島に処された。
「早急な裁きに納得が行きませぬ。
国府に、事件をよく捜査した上で裁くよう直訴いたします」
貴王女が、苦虫をかみつぶしたような顔で言った。
「好きにいたすが良い」
九品親王が冷たく言い放った。
「本当に、魚の毒にあたったせいなんですか? もしかしたら、別の病が原因だとも考えられませんか? 」
貴王女が言った。
「何を申すか? 明星の診たてに誤りなどあるものか! 」
九品親王が声を荒げた。
「我は、この屋敷に長く暮らしておりました。
だから、ここで働く全員の人柄をよく知っております。
ここには、毒を盛るような者は誰1人いません。
それなのに、我ではなくて、
今日会ったばかりの見知らぬ者の方を信用なさるのでございますか? 」
貴王女がめずらしく、感情的になった。
「明星は、我に仕えさせることにした」
あろうことか、九品親王が、明星を召し抱えたいと言い出した。
九品親王が変わり者なのは知っていたけれど、
ここまでとは知らなかった。
会ったばかりのどこの馬の骨なのかもわからない
若者を己の傍におくなど非常識にもほどがある。
「誰が、何を言おうがどこ吹く風と言った感じでしたね」
私が半分、あきれながら言った。
「明星の出会いを機に、放浪生活に終止符を打つことを決めたようじゃ。
大王様も、お認めにならざるを得ないでしょうね」
貴王女が言った。
九品親王がにやけた。
「お倒れになったというお方は、どちらにおられますか? 」
坊主頭の見知らぬ男が、2人の間に割り込むと訊ねた。
「こっちじゃ。ついて参るが良い」
九品親王が、その坊主頭の男を鳰海姫の元へ案内した。
「貴王女。我らも参りましょう」
私は、めずらしく、ぼ~っとなっていた貴王女に声をかけた。
鳰海姫の居所から、苦しそうなうめき声が聞こえた。
九品親王たちに続いて、部屋の中に入ると、
鳰海姫が、布団の上に海老ぞりになって横たわっていた。
「九品親王。この者は、どこの誰なんですか?
最近まで、この地で暮らしていましたが1度も会ったことはございませぬ」
貴王女が疑う目つきで、その坊主頭の男をみると言った。
「里中医の元を訪ねたら、この者が治療を手伝っておったのじゃ」
九品親王が決まり悪そうに言った。
「我の名は、明星(あけぼし)と申します。お見知りおきを」
その坊主頭の男が、頭を下げると名を名乗った。
「ところで、鳰海姫に、何の薬を飲ませたのじゃ? 」
貴王女が、明星に訊ねた。
「解毒の薬です」
明星が短く答えた。
「解毒とな? 鳰海姫は、毒を盛られたと申すか? 」
九品親王が、明星に詰め寄った。
「これは、魚の毒による症状です。
おそらく、毒がある魚を食したせいでございましょう」
明星が冷静に告げた。
「厨長をここへ呼んで参れ。
鳰海姫のお膳に、毒を盛るなどあるまじきことじゃ」
九品親王が、その場にいた鳰海姫のおつきの人たちを凍りつかせた。
すぐさま、厨長が、九品親王の元に呼ばれた。
厨長が、毒を盛るような人物ではないことは、
私も貴王女も知っていた。貴王女が食べたいものを
苦労してでも手に入れて料理してくれる心根の優しいおじさんだ。
何かの間違いであってほしいと願った。
「厨長よ。おまえが、毒を盛れと命じたのか? 」
九品親王が、厨長を問い詰めた。
「いいえ、違います! どうか、信じてください! 」
厨長が、土下座すると身の潔白を訴えた。
「何かの間違いです!
この者は、善良な料理人であって毒を盛るなどありえません! 」
貴王女が、厨長をかばった。
「では、魚の毒に心当たりは?
料理法に何か、問題があったのではないか? 」
九品親王が、厨長に訊ねた。
「失礼ですが、毒のある部位を誤って使った。
あるいは、よく、火を通さずにお出ししたとは考えられませんか? 」
明星が神妙な面持ちで言った。
「毒のある魚介類を、高貴なお方のご膳に
お出しするはずがございませんでしょう? 」
厨長が、大きく首を横に振りながら必死に否定した。
「お膳に手をつけた後、鳰海姫が倒れたことは明らかじゃ。
何はともあれ、おまえには、厨長としての責任を取ってもらわねばならぬ」
九品親王が低い声で言い放った。
「何とぞ、命を取るのだけはお許しくだせえ」
厨長が命乞いした。
その後、九品親王の命により、厨長は、国府の牢に投獄された。
その日のうちに、厨長は遠島に処された。
「早急な裁きに納得が行きませぬ。
国府に、事件をよく捜査した上で裁くよう直訴いたします」
貴王女が、苦虫をかみつぶしたような顔で言った。
「好きにいたすが良い」
九品親王が冷たく言い放った。
「本当に、魚の毒にあたったせいなんですか? もしかしたら、別の病が原因だとも考えられませんか? 」
貴王女が言った。
「何を申すか? 明星の診たてに誤りなどあるものか! 」
九品親王が声を荒げた。
「我は、この屋敷に長く暮らしておりました。
だから、ここで働く全員の人柄をよく知っております。
ここには、毒を盛るような者は誰1人いません。
それなのに、我ではなくて、
今日会ったばかりの見知らぬ者の方を信用なさるのでございますか? 」
貴王女がめずらしく、感情的になった。
「明星は、我に仕えさせることにした」
あろうことか、九品親王が、明星を召し抱えたいと言い出した。
九品親王が変わり者なのは知っていたけれど、
ここまでとは知らなかった。
会ったばかりのどこの馬の骨なのかもわからない
若者を己の傍におくなど非常識にもほどがある。
「誰が、何を言おうがどこ吹く風と言った感じでしたね」
私が半分、あきれながら言った。
「明星の出会いを機に、放浪生活に終止符を打つことを決めたようじゃ。
大王様も、お認めにならざるを得ないでしょうね」
貴王女が言った。