第6話 呪い返し

文字数 1,128文字

「さもあろう。下がるが良い。今から、呪い返しを行う」

 乙津がそう言い、部屋にいた人たちを下がらせると、

塩を王太子妃が眠る布団の周りに撒いて呪い返しの呪文を唱えた。 

その直後、黒い影がスッと、戸をすり抜けて

部屋から飛び出して行ったのがみえた。

「呪いは返せたのですか? 」

 蓬莱鷹羽が身を乗り出して、乙津に訊ねた。

「おそらく、いまごろ、呪詛した者は、痛手を受けているはずです」

 乙津が答えた。

「呪詛した者に心当たりがある。

その者が今、どうしているのか確かめに行かせよう」

 蓬莱鷹羽が言った。

「それはいけません。生霊というものは、

本人が、無意識につくり出していることが多いんです。

呪い返しをしたと知ったら、報復してくるやもしれません」

 乙津が、蓬莱鷹羽を止めた。

「報復などさせるものか」

 蓬莱鷹羽が忌々し気に言った。

「また、何かありましたら、お呼びください。我は、これにて失礼します」

 乙津が、そう告げると部屋を後にした。
 
 それから、3日後。私は、サカ王女の元を訪れた。

部屋の中に入ると、きよと共に、見知らぬ童女が座っていた。

童女は、私の姿が見えるらしく、私に気づいてほほ笑んだ。

「こちらは、臨時に、あなたの主となった常世(とこよ)だ」

 きよが、童女を私に紹介した。

「いったい、どういうことなんですか? 」

 私が、きよに訊ねた。

「常世は、あなたの姿が見える。

すなわち、幻兎の主の資格を持っているというわけだ。

王太子妃に万が一のことがあった場合、

人間のからだに憑依していなければ、おからだに触れたりできない。

貴王女のからだに憑依して、王太子妃のお傍にいるのは不自然だということで、

王太子妃付の女童(めのわらわ)【侍女見習い】に常世を推挙した。

明日から、あなたは、常世について王太子妃の居所へ参りなされ」

 きよが、早口でまくしたてた。

「何となく、話は理解しました。

なれど、この娘が、意識を失わないと憑依できません」

 私が、常世を指さすと言った。

「いざとなったら、これを使うが良い。これを口にすると意識を失うことができる」

 きよが、浄からもらった薬玉を常世に手渡した。

「これが、かの薬玉ですね」

 常世が、目を輝かせながら言った。

「いざという時にだけ使うのだぞ。

やたらめったら、使えば、2度と、目覚めることができなくなるかもしれぬ」

 きよが、常世に言い聞かせた。

「心得ました」

 常世が言った。

かくして、私は、常世と共に、王太子妃の居所へ行くことになった。

どうなることやら? 

それにしても、王太子妃を呪う生霊の正体は誰なんだろう? 

蓬莱鷹羽は、心当たりがあるようにみえた。

理由は知らないけれど、王太子妃の命をねらうなんて 絶対、許せないんだから! 

絶対、阻止してやる!

 
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