第5話 呪詛
文字数 1,207文字
しばらくして、蓬莱鷹羽が、【陰陽頭】の乙津獅恩を連れて来た。
乙津が、私に気づいておやっと言う顔を一瞬した。
「何とぞ、お人ばらいを」
蓬莱鷹羽が、乳母に告げた。
「どうなんですか? 」
蓬莱鷹羽が、乙津に訊ねた。
「王太子妃の周囲に、邪気が漂っています」
乙津が答えた。
「やはり、邪気の正体は、妖狐なのか? 」
「いいえ、違います。おそらく、霊の仕業かと存じます」
「霊とな? まさか、怨霊が、王太子妃を呪っているのですか? 」
「怨霊ではなく、生霊です」
乙津がそう答えた瞬間、後ずさりした蓬莱鷹羽が、
足元にあった何かにつまづいて私の方へ倒れこんできた。
重い! 離れてくだされ! 私は、蓬莱鷹羽のからだを押し出した。
すると、蓬莱鷹羽は、首をかしげながら立ち上がった。
ふう、助かった。いったい、何につまづいたのだろう?
蓬莱鷹羽が、つまづいたモノを確かめると、
蛇の皮が貼られた唐の弦楽器らしきものが、床に置いてあった。
なぜ、こんなものが?
「死ね! 死ね! 」
突然、王太子妃が、むくっと起きると低い声でさけんだ。
その声は、明らかに、王太子妃の声ではなかった。
「王太子妃。正気に戻ってくだされ! 」
蓬莱鷹羽があわてて、王太子妃のからだを抑えようとした。
ところが、ものすごい力にはね返されて、その場にしりもちをついた。
「ついに、現れたか? 」
乙津が言った。
「王太子妃に、いったい、何が起きているんですか? 」
蓬莱鷹羽がさけんだ。
「とにかく、外へお出にならぬよう、全力で、食い止めましょう」
乙津が、壁や戸に護符を貼ると言った。
「王太子妃! 」
蓬莱鷹羽のさけび声に驚いて、
王太子妃の方をふり返ると、王太子妃は、まるで、人が変わったみたいに、
頭を上下左右に激しく揺らしながら、獣のような奇声を上げた。
その後、王太子妃は、四つん這いになり部屋中を駆けずりまわったり、
部屋の中にある調度品を踏みつぶしたり投げたりして部屋を荒らした。
乙津と蓬莱鷹羽がやっとのことで、
王太子妃を部屋の隅に追い詰めて取り押さえると、
何度も、頭や腹を蹴られながらも布団の上に運んだ。
王太子妃は、布団の上に横たわった途端、寝息を立てはじめた。
「これは、いったい、どういうことですか? 」
「王太子妃は、ご無事なんですか? 」
「なんてことだ! 」
まるで、強盗が入ったか後のような荒れた部屋を呆然と眺めていると、
外にいた乳母たちが、ぞろぞろと入ってきて口々に声を上げた。
「説明してくだされ」
乳母が、乙津に言った。
「見ての通り、王太子妃に取り憑いていた者が大暴れしました」
乙津が神妙な面持ちで答えた。
「落ち着いて聞くが良い。陰陽頭の霊視によると、
王太子妃には、生霊がついておるそうな」
蓬莱鷹羽がそう告げると、乳母たちが騒然となった。
「生霊ということは、つまり、生きている何者かが、
王太子妃を呪詛したということですか? 」
乳母が、乙津に訊ねた。
乙津が、私に気づいておやっと言う顔を一瞬した。
「何とぞ、お人ばらいを」
蓬莱鷹羽が、乳母に告げた。
「どうなんですか? 」
蓬莱鷹羽が、乙津に訊ねた。
「王太子妃の周囲に、邪気が漂っています」
乙津が答えた。
「やはり、邪気の正体は、妖狐なのか? 」
「いいえ、違います。おそらく、霊の仕業かと存じます」
「霊とな? まさか、怨霊が、王太子妃を呪っているのですか? 」
「怨霊ではなく、生霊です」
乙津がそう答えた瞬間、後ずさりした蓬莱鷹羽が、
足元にあった何かにつまづいて私の方へ倒れこんできた。
重い! 離れてくだされ! 私は、蓬莱鷹羽のからだを押し出した。
すると、蓬莱鷹羽は、首をかしげながら立ち上がった。
ふう、助かった。いったい、何につまづいたのだろう?
蓬莱鷹羽が、つまづいたモノを確かめると、
蛇の皮が貼られた唐の弦楽器らしきものが、床に置いてあった。
なぜ、こんなものが?
「死ね! 死ね! 」
突然、王太子妃が、むくっと起きると低い声でさけんだ。
その声は、明らかに、王太子妃の声ではなかった。
「王太子妃。正気に戻ってくだされ! 」
蓬莱鷹羽があわてて、王太子妃のからだを抑えようとした。
ところが、ものすごい力にはね返されて、その場にしりもちをついた。
「ついに、現れたか? 」
乙津が言った。
「王太子妃に、いったい、何が起きているんですか? 」
蓬莱鷹羽がさけんだ。
「とにかく、外へお出にならぬよう、全力で、食い止めましょう」
乙津が、壁や戸に護符を貼ると言った。
「王太子妃! 」
蓬莱鷹羽のさけび声に驚いて、
王太子妃の方をふり返ると、王太子妃は、まるで、人が変わったみたいに、
頭を上下左右に激しく揺らしながら、獣のような奇声を上げた。
その後、王太子妃は、四つん這いになり部屋中を駆けずりまわったり、
部屋の中にある調度品を踏みつぶしたり投げたりして部屋を荒らした。
乙津と蓬莱鷹羽がやっとのことで、
王太子妃を部屋の隅に追い詰めて取り押さえると、
何度も、頭や腹を蹴られながらも布団の上に運んだ。
王太子妃は、布団の上に横たわった途端、寝息を立てはじめた。
「これは、いったい、どういうことですか? 」
「王太子妃は、ご無事なんですか? 」
「なんてことだ! 」
まるで、強盗が入ったか後のような荒れた部屋を呆然と眺めていると、
外にいた乳母たちが、ぞろぞろと入ってきて口々に声を上げた。
「説明してくだされ」
乳母が、乙津に言った。
「見ての通り、王太子妃に取り憑いていた者が大暴れしました」
乙津が神妙な面持ちで答えた。
「落ち着いて聞くが良い。陰陽頭の霊視によると、
王太子妃には、生霊がついておるそうな」
蓬莱鷹羽がそう告げると、乳母たちが騒然となった。
「生霊ということは、つまり、生きている何者かが、
王太子妃を呪詛したということですか? 」
乳母が、乙津に訊ねた。