第4話:田園調布の上客攻略

文字数 2,346文字

 そうして、また日本でゴルフをしようと誘われ、池田が喜んでお供しますと笑いながら答えた。最後に鍋島家を訪ねて鍋島恒夫さんが池田君に、あんなにゴルフがうまくなってくれ、教えたかいあったと、喜んでくれた。

 また来春に伊豆に行ってゴルフしようと言われ、お供しますと喜んで答えた。そうして、12月になり1997年を迎えた。1997年も、真っ先に上得意の鍋島家、泉家を尋ねて新年の挨拶し続いて、野田さん、池上家、池辺家を新年のあいさつ回りをして回った。

 3月になり4月の生命保険の更新時期に我が社への変更をしてくれると言った先を訪問し、再度、確認をして回った。4月10日に12軒、変更すると言われたうち10軒が新たに、我が社の生命保険に切り返してくれ、切り替え先が全て大口先だったので、世田谷営業所の業績が大きく伸びる結果となった。

 もちろん、切り替え先に、お礼の品を持って、お礼参りに言ったのは言うまでもなく、その後も、鍋島さんとのゴルフ練習での付き合いを継続していた。次に新しい顧客の池上夫婦、池辺夫婦を回り奥さん達の交友関係が広いことがわかった。

 そしてテニス大会に商品を提供したりして友達の輪を利用して10人の新規のお客さんの家を訪問するようになり切り替えても良いという話が出て仲良くなるとテニススクールに入りなさいよと言われ参加して、より親密な付き合いができるようなった。

 そしビジネスチャンスも増えた。世の中は、奥様達の力が強く、また、奥様達のサークルは最高の市場で、その後テニス合宿に河口湖までハイエースを借りて送迎したり、しっかり付き合いを続けた。

 やがて、冬になると今度は南国のグアムでテニスとゴルフ旅行に誘われ、2泊3日で出かけて奥様方に付き合ってドライバーになったり、ポーターになったりして誠心誠意尽くしていった。すると年が明けた1998年の春に13軒の新規先ができた。

 池田は営業マンに自分の様に攻めのセールスで他社からの切り替えを積極的にすすめて、交際費がかかっても業績を上げろと、営業会議でハッパをかけ続け世田谷営業所の業績が上昇して以前の業績を拡幅することが射程距離内に入った。

 そうして、1998年も冬を迎え、またグアムへのお誘いがあり今回は新しく5人の若いマダムが世田谷マダムの仲間入りしたそうで、芸能人、スポーツ選手の奥さんばかりで羽振りも良く総勢12人となったので部下の35歳独身の真田課長に同行を依頼した。

 2人で大型のバンを借りてテニスコート、ゴルフ場、レストラン、名所の観光に付き合った。今回はゴルフやテニスの競技には参加せず黒子に徹してテニスコート、ゴルフ場への連絡、送迎などマダム達の要望にできる限り答えた。そして大きな問題もなく2泊3日の旅行を終えた。

 その後、真田課長と池田が手分けして新規顧客先の訪問を開始し保険契約の内諾を12件もらい大喜びしているうちに12月が過ぎ1999年を迎えて3月に最終確認を取りに行き4月から予定していた新規12件の生命保険新規契約を取ることができた。

 1998年の業績は対前年30%と大幅な伸びで伸び率全国の営業所トップで表彰され多額のボーナスと報奨金を手にできた。1999年も世田谷マダムのグループ鍋島家と泉家との付き合いを欠かさず、毎年数件の契約をもらっていた。

 7月、10月の世田谷マダムの河口湖のテニスや冬場2月のグアム旅行に付き合い5-10件の新規契約をもらった。2000年も2月10日に真田課長と共に世田谷マダムのテニス、ゴルフに付き合い今回は特に観光する場所を調査しておいて招待すると喜んでもらえた。

 2000年4月を過ぎると日本のネットバブルが崩壊して一気に不景気になり7月、10月の世田谷マダムの河口湖のテニスや、冬場2月のグアム旅行が中止になり新規の契約が取れなくなった。頻回に訪問しても、なかなか新規の契約が取れない。

 それどころか、もっと安いプランに替えてとか言われる始末で苦戦の連続。追い打ちをかけるように一番、仲良くしてくれた鍋島恒夫さんが脳梗塞で倒れて入院したとの連絡が入った。そこで病院にお見舞いに行くと、面会謝絶で会えなかった。

 翌月も病院を訪問したが面会を拒否されて会えなかった。そして得意先が一挙に減ってしまい業績の低迷し始めると東京営業部の鮫島太一部長が世田谷営業所に来て池田君どうしたんだと業績が落ちてるじゃないかと言われた。

 事情を話したが理由はわかるが、こんな時に、何とかするのが池田君じゃないかと言われた。早く挽回しろよと言われた。そして2000年も12月を迎え、結局、池田、個人では新規開拓が2件で契約解除が2件。営業全体では新規開拓8件で契約解除が12件と大きく負け越した。

 やがて2001年となり2001年1月5日新年の挨拶にアポなしで鍋島家を訪ね、新年の挨拶しようかと思っている時に玄関ドアが開き奥さんと半身不随の鍋島恒夫が出て来た。痛々しく装具を付けて出て来て、リハビリのための散歩に出る所に出くわした。

 思わず鍋島恒夫さんに、お久しぶりですと、挨拶すると、鍋島恒夫さんがきょとんとして、こちらを見ると、奥さんが怒ったような声で、アポも取らないで突然来るなんて、礼儀知らずねと言った。鍋島は病気で記憶も失ってるのよと、池田を叱りつけた。

 その勢いに負け失礼しましたと言い逃げる様に去った。泉家に新年の挨拶に行った時、奥さんに鍋島さんの具合はと聞かれたが面会謝絶で分からないと答えた。うちでも面会をお願いしても記憶も戻らないので遠慮させて下さいと言われるばかりで、わからない困っていた。
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