緑の匂い/あの時はどうも

文字数 792文字

考えてみれば、お前は「お兄さんっ子」だったな。
本棚にあった「世界の名著」、大江、漱石、ドストエフスキー…

レコードも兄はいっぱい持っていた、矢沢永吉、吉田拓郎、中島みゆき、荒井由実…

セルジュ・ゲーンズブール…

それらを読み聴きして、お前は精神的に育ったと言っていいな。

15才も歳が離れていたら、兄弟というより、親子のほうが近そうだ。

身体の成長は、親が食わしてくれた…

でも精神、思想的には、兄の影響がでかい。

といって、兄にどんな思想があったかといえば、特にコレというものは…。

こっちが勝手に兄の本棚から本を取って読み、ステレオでレコードを聴いていたのさ。

だいたい兄は冗談しか言わない人だったからね。

でもチャンとしていた人だった、嘘をつかぬ、こちらの心のようなところをチャンと見てくれているような、そしてまわり、社会的なものもチャンと見ているような…。

それもこっちが勝手にそう感じていることでね。

実際そういうもんなんだよな、関係というのは。

あらゆる、人との関係というのは。

ひとりでその人のことをあれこれ考えて。

一人合点、一人相撲、一人でああだこうだとやっているのさ。

キルケゴールに言われるまでもなく、人との関係は自分自身との関係なのさ。

しかし東京は楽しみだな。

また行くんだろ?

うん、二日間だけね。

会える時に会っておかないと。

なんでもそうだよな。

生きてるうちの話だ。

なんでもそうなんだ…

この下田逸郎もお兄さんの影響だな。

「さりげない夜」が僕の一番大好きなLPでありタイトル曲なんだけど、youtubeに無いんだ。

で、「緑の匂い」にした。こういう曲を唄える人、なかなかいないと思っている。

いのち、生命… そういうのを、ずっと唄ってきてると思える人で… 何百曲も作ってきた下田さんだけど、こういう唄い手は、この人以外オレは知らない。

下田さんは、ずっと下田さんなんだよな。

あ、「あの時はどうも」も…。
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