Without You

文字数 427文字

── だいぶ体調、良くなってきたんじゃないか?


── おかげさまでね。時間のおかげだ。


人生100年時代なんていわれるが、馬鹿いっちゃいけない。

30年で70年ぶん生きる人だってある。

80年生きて、10年ぐらいしか生きていない人もある。


何にしても、時間でしかないよ。

20だろうが40だろうが…

いつ死のうが、いつまで生きようが。


── 「平均」なんてのは馬鹿げた基準だ。

ひとりひとり、自分の肉体と精神に沿って、生きて死ぬのさ。

そこに「早すぎた」も「遅かった」もないんだよ。


生まれた時から、死の気球に乗って宙を舞い、揺蕩うのさ。

死は常に生を包んで、生はいつも死を含んでさ。


こないだ、こんな話を聞いたよ。

敵に捕らえられた武士に、大将が『死ぬか生きるか』と訊く。

『生きる』と答えると、それは降参の意味になる。

『死ぬ』と答えると、屈服しない意味になる。


生きることは、屈服することなんだ。

死ぬことは、降参しないということだ。


生きるって、そういうことかもしれないと僕は思った。

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