第9話 医療費控除じゃない「高額療養費制度」って?

文字数 1,246文字

乳がん手術の説明を受けた次の日。小百合は大分市金池のJ:COMホルトホール大分にある“全国健康保険協会大分支部”に来ていた。中小企業の労働者やその家族が加入する健康保険制度を提供する公益法人だ。“協会けんぽ”とも呼ばれる。

手術の説明の後、外科外来の受付で渡された書類の中に「“限度額適用認定証”について」というプリントが入っていた。限度額適用認定証は、高額療養費制度を利用するときに必要な証明証である。小百合は「医療費控除」は知っていたが「高額療養費制度」は初耳だった。

医療費控除と高額療養費制度の最も大きな違いは、“後から戻ってくる”か“その場で補填される”かだろう。

医療費控除の申請先は税務署である。所得控除として税金が減額される。高額療養費制度の申請先は、協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険などである。医療費が自己負担限度額を超えた場合に、その超過分が補填される。

高額療養費制度を利用すれば、退院時の精算で一定の金額以上の医療費は払わなくてもよくなるのだ。

“一定の金額”は、被保険者の収入によって変わる。修二の場合、報酬月額28万~50万円の「区分ウ」に該当する。自己負担限度額は80,100円だ。医療費がそれ以上の額になっても、その分は払う必要がない。(令和5年現在)

窓口の担当者に申請書類を手渡すと、担当者は小百合にたずねた。
「入院する時期はもう決まっていますか?」

なぜそんなことを聞くのだろう?不思議に思いながら、小百合は
「10月30日から一週間ぐらいの予定です。」
と答えた。それを聞いた窓口の人が小百合に教えてくれた。

「高額療養費制度は1日から月末までの一ヶ月で計算します。入院期間が月をまたぐと、月の変わり目で医療費が分割されてしまうんです。一週間程度の入院なら、ひとつの月に収めたほうがいいですよ。」

なんとまぁ杓子定規な。今回の入院はあらかじめ決まっていたからいいようなものの、不意のケガや急病で入院したときはどうするのだろう。運が悪かったと諦めるしかないのだろうか。何だか腑に落ちないが、親切な窓口の人のおかげで、今回は医療費が分割されずに済みそうだ。よかったと思うことにしよう。

限度額適用認定証が手元に届くまで、2週間ぐらいかかるらしい。窓口の人にお礼を言って小百合は席を立った。

ちなみに、令和6年6月現在は、マイナ保険証があれば限度額適用認定証を取得する必要はない。医療機関等の窓口でマイナ保険証を提出し、「限度額情報の表示」に同意するだけである。

しかし、医療費の計算方法は相変わらず1日~月末だ。入院の予定を立てるときは注意が必要だろう。

ホルトホールからの帰り道、小百合はその足で別府医療センターに向かった。外科外来の受付で理由を話し、入院の期間を変えてもらえないか相談した。
「分かりました、先生に伝えましょう。たぶん大丈夫だと思いますよ。」
受付の人はそう言った。

後日、医療センターから小百合の携帯に電話があった。入院は10月30日から11月6日に変更になった。

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