第11話 断食

文字数 968文字

 カフカに、「断食行者」という題名の小説がある。(断食芸人、と訳されることが多いようだ。でも芸人より、行者のほうが、いいと思う)
 断食を、見世物にしている主人公の物語。

 べつに、マネをしたわけではない。ただ自分も、5日間だけ、物を食べなかったことがある。
 ひょんなことから、そうなって、ひょんなことから、また食べはじめた。
 この「断食」というのは、実は健康に良いらしい。
 ただ、知らなかったのだけど、「回復食」には、気をつけないと、危なかったらしい。内臓破裂やら腸ネンテンやら、とにかくおなかがほんとに壊れてしまう可能性があるとのことだった。

 まったく、生存していると、いろんな可能と不可能がある…

 その断食中、自分の場合、心臓と頭が多少痛くなる時があったが、あとはべつに何ということもなかった。(朝起きて頭が痛いと、アイスコーヒーを飲んでシャキッとした気になったりした。タバコを吸うと、またシャキッとしたりした。「断飲」はしていなかった)
 確かにフラついたりもしていたが、そこはわけのわからない気力があった。

 何日目だったか、いわゆる「宿便」らしきものが出た。散歩中、便意を催して、公園のトイレに駆け込んだのだったが、そこは和式だった。なにやらニュルニュルした感じで、妙に粘着力がありそうだった。で、流しても、なかなか流れて行かなかった。お食事中の方、ごめんなさい。でも、快便あっての快食です、と自己弁護。

 気のせいか、ずいぶん健康体になった気がした。
 そう、なんだか、身体にあった老廃物が、自然に流されたような。ピカピカの一年生(古いネ)になった気がした。
 また、断食中は夏だったせいか、氷の入ったカルピスがやたらと美味しく感じられた。この世でいちばん美味しいものだった。
 断食初日~2、3日後あたりだったか、やっぱりお腹がひどくすいたけれど、それを越えたら、なんだか気持ちよく、ムダに力の入らない(入れようがない?)、平安な気分になったことを覚えている。
 ちなみに、夕ご飯を食べて、翌朝まで何も食べないのも、プチ断食になるらしい。
 内臓さんは、日頃ムリなさっているらしいから、断食はちょっとした良いバカンスになるだろう。

 この5日間だけの断食行者は、見世物ではなかったけれど、「健康法」と題して、つまらぬ自分をさらしているらしい…
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