第3話 飲尿療法

文字数 1,157文字

 30歳の頃、「椎間板ヘルニア」と医者に診断され、「一ヵ月は安静にして下さい」と言われた。だが、日雇い労働のような身でもあって、妻子もいたので、一ヵ月も仕事を休んでいられない。
 まったくそれはひどい腰痛で、自分で靴下も履けなかった。とにかく痛い。
 で、当時親交のあった無農薬の八百屋さんから、「おしっこ飲むといいよ」と言われ、まさにワラにもすがる思いで、ええ、飲みましたよ、飲みましたとも。
 といっても、そんな、ホンの一口、いや、小さじ一杯もない。
「朝一のおしっこを、ちょぴっと」。「お日様なんかに、『どうもありがとう』って言って、飲むといい」。

 いやー、とにかく私は単純なので(信用した人の言うことはたいてい聞く)、言われた通りの心で飲んだ。昔、インディアンは腰痛を、おしっこを飲んで治したらしい。
 ちょっぴり飲んで、すぐリンゴなんかをかじって口直し。ああ、一仕事終わった、という感じでタバコなんかも吸う。

 この「飲尿療法」と、あと「呼吸に注意しながら背筋を伸ばす」体操の仕方を教わった。
 ふつうに立って、両腕を耳に当て、手先をまっすぐ天に伸ばしていく。その際、鼻から息を、ゆっくりゆっくり、深く吸って行く。
 そして足のつま先も立たせ、手の先は天に向かい、その瞬間、いっぱい吸った呼吸を止める。そのまま10秒位(だったと思う)、その状態を保つ。
 で、これが肝心らしかったのが、10秒たったら「思い切り全身の力を抜いて口から息を吐く」。
 もちろんフラつくけれど、あくまでもムリをせず、できる範囲内で、これを何回か繰り返す。

 飲尿とこの体操のせいか、医者に行かぬまま、一ヵ月もしないうちに腰は治った。
 若かったせいもあったかもしれない。
「いや、かめくん、気持ちの問題じゃない? 毎朝おしっこ飲んで、『こんなスゴイことやった!』っていうのが、自信みたいなのに繋がってさ…」と友達に言われたけれど、とにかく痛みがなくなればこっちのものだ。
 あの体操も、晴れた日にビルの屋上なんかでやって、とても気持ちがよかった。現場仕事も休むことなく、親方に「ムリするな」と言われるがまま、休まず行った。

 それから10年後、また腰痛に見舞われて、その時はチャンとした会社(?)に勤めていたので、早く治りたい一心で総合病院に行った。「腰痛、初めてですか?」みたいに受付で訊かれ、「いえ、前にもなったけど、自然に治った」旨を伝えると、「そうそう、自然に治るのが一番いいんですよ」と明るく言われた。

「人間は、『気』のかたまりである」と古文書にある。「腰は、最もストレスを受け易い」らしい。「病は気から」。だとしても、いや、だとするなら、日常生活で弱った「気」をたてなおす、いい機会だったかもしれない。
 でも、勇気、要りました。おしっこ飲むの…
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